こんにちは、youjo_tape と申します。
本記事は、2019 年度 traP Advent Calendar 44 日目の記事です。
575
五月雨を 集めて早し 最上川
有名な松尾芭蕉の一句です。「さみだれを / あつめてはやし / もがみがわ」と、音が 575 の並びになっています。
5 と 7 の織り成す小気味よいリズム、それが 575 です。
ところで、俳句や川柳が 575 になっているのはもちろんのことですが、日常にも 575 はたくさんあふれています。そこで、この記事では皆さんの 575 センサーの能力を向上させ、日常の 575 に気づけるようになってもらうべく、様々な 575 を紹介していきます。
いろいろな 575
575 は、その 「形」 によって、以下のようなタイプに分類することができます。
(normal) 575
通常の 575 とは、このように、「意味の切れ目」に合わせて その音が 5/7/5 と切れている[1] ような、合計で 17 音のフレーズを 指します。「意味の切れ目」の判断基準には個人差がありそうですが、これはおおよそ「文節の切れ目」とみなしてよいでしょう[2]。実際、ここで挙げた 575 たちはどれも文節単位で 3 つに分かれていますね:
- 「つうじょうの / ごーしちごとは / この/ように」
- 「その/おとが / ごー・しち・ごー と / きれて/いる」
- 「ごうけいで / じゅうななおんの / ふれーずを」
tips
「575」というワードは、「ごーしちご」(5 音)、「ごーしちごー」(6 音)のどちらにも読めるので、575 に組み込みやすいという特徴があります。上の例でもこの性質を駆使していることがわかるでしょう。
jiamari 575
一方で、厳密には 575 ではないものの、その 切れ方が 575 に近いような フレーズも、575 の一種だと考えたくなります。俳句で言う「字余り」/「字足らず」575 ですね。
以上に示した 3 つはどれも「字余り」575 で、それぞれ 675、576、585 になっていますね:
- 「げんみつには / ごーしちごでは / ないものの」
- 「きれかたが / ごーしちごーに / ちかいような」
- 「はいくでいう[3] / じあまり・じたらず / ごーしちご」
わたしはあまり「字余り」や「字足らず」の 575 を好まないのですが、まあ 585 くらいは許してやろうかなという気持ちを持っています。
tips
パッと見では字余りなのにもかかわらず、実際に読み下すとそれほど "字余り感" のないフレーズも存在します。例えば、以下に示す単語たち[4]はどれも 6 音に見えますが、5 音で自然に読むことができます:
- 山菜王
- 超存在
- エアシューター
- 日焼けマシン
これらの単語に共通する特徴は、"6 音目の主張が激しくない" ことです。「い」「う」「ー」は直前の母音を(うまく)伸ばしたら発音できますし、「ん」は母音を伴わないので "発音された感" が薄いですね。このような字余りは "セーフな" 字余りだといえます。
badSplit 575
575 というものは 文章の様々な場所に潜んで、我々を今か今かと待ち受けています。しかしながら、我々は 575 を強く追い求めるあまり、言葉の隅々から "無理やりに" 575 を見出そうとしてしまいます。
- 「ぶんしょうの / さまざまな/ばしょ / に/ひそんで」
この青い区切りは、文節の切れ目と一致していません。このような 575 は、俗に "bad split" な 575 と呼ばれています。
その性質上、badSplit 575 はあまり "自然な" 575 ではないので、文章中に badSplit 575 を見つけてもそれほど嬉しくはならないし、それを指摘しようという気も起きにくい気がします。badSplit があえて指摘されるタイミングといえば、「何らかの(実際に発言された言葉とか、ツイートとかといった)言明の(一部ではなく)全体が badSplit 575 である」ときくらいでしょうか。
composite 575
ただの "ありふれた" 575 を見つけて喜ぶなんて、それだけじゃもう満足はできないぞ、とか思ってる 575 エキスパートの方々は、複数の 575 をくっつけた、"複合的な" 575 を追い求めてみるというのはどうでしょうか。通常の 575 より格段に見つけにくい でしょうが、苦労して見つけたときの達成感は大きいはずです[5]。
- 「それだけじゃもう満足はできないぞ」/「満足はできないぞ、とか思ってる」
- 「複数の 575 をくっつけた」「くっつけた、"複合的な" 575」
- 「通常の 575 より格段に」「575 より格段に見つけにくい」
このように、composite 575 には 525525・57575・55255 といったパターンがあります。57575 はまだいいとしても、55255 や 525525 は血眼になって探しても見つかるもんじゃありません。2 の部分に収まる言葉がそもそも少ないんですよね。もしも、有名な文章中に自然に隠れた 55255・525525 といったフレーズを見かけたら、ぜひご一報くださいな。
tips
もしあなたが「575 を言って指摘されなければ勝ちゲーム」を遊んでいるならば、composite 575 は勝利のための効果的な手段となるでしょう。片方の 575 に気を取らせ、もう一方を気づかれないようにすればよいのです。
日本国憲法に見る 575
以降では、記事タイトルにもある通り、わが国の掲げる 日本国憲法 を例にとって、ここから 575 を探してみます[6]。
皆さんもここまで記事を読んだなら、もはや該当箇所を太字で示さなくても 575 に気づけますよね?
前文
…… ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。……
…… 人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、……
第二十三条
第二十七条
すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
第二十九条
…… 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。……
第三十一条
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第三十二条
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第三十三条
何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第三十五条
捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
第四十条
何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
第四十五条
衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
第五十条
両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。
第六十三条
内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。
第七十三条
…… この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。……
第七十五条
国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。
第八十一条
最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
第八十二条
いかがでしたか?
以下では、わたしのお気に入り条文 3 つを再掲し、その感想を述べています。
第二十三条 学問の自由は、これを保障する。
実はこれ、日本国憲法中の 575 として界隈では有名な条文である……らしいです。第二十三条はこれ一文で完結しているので、とても綺麗ですね。
第二十七条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
「勤労の権利を有し、義務を負ふ」思わず口に出して唱えたくなる語感。それとなく k(および g)で頭韻が踏まれているためでしょうか。意味の切れ目と 5/7/5 の切れ目がぴったり一致していることも、その一助となっていそうです。また、「権利を有し」「義務を負ふ」の対比もバッチリ決まっていてカッコいいですね。
第八十二条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
57577! 後ろの 77 がちょっと badSplit 気味なのが惜しいところですが、それでもやはり一文でスパッと言い切っているところは魅力的です。
さまざまな 575
最後に、先に挙げた分類法とは別の、575 のメジャーな分類法を紹介して、この記事を書き終えたいと思います。
その分類は、575 の構造ではなく、575 の "作られ方" によるものです。
#a: artificial 575
artifical 575 とは、意図的に生成された 575 のことをいいます。
実は、この記事の本文には大量の 575 が埋め込まれている[7] のですが、そのうちの 6 割くらいは artifical です。
#n: natural 575
natural 575 とは、意図せずに偶然できた 575[8] のことをいいます。
この記事に隠された 575 であって natural なものは 3 割程度であったように感じます。意外とありました
#r: realized 575
realized 575 とは、書きながら気づくタイプの 575 のことをいいます。5、7、まで書いて、「あ、これあと 5 を書けば 575 になっちゃうな」ってなるヤツです。
こういう "ちゃんとした文章" を書いているときは、推敲をする関係上「書くタイミング」と「575 を見つけるタイミング」がズレるので、あまり realized 575 は多くありません。1 割くらいじゃないでしょうか。
以上、多種多様な 575 の紹介でした。みなさんが 575 ハンターになれますように。
明日 45 日目の記事は pepper さんが担当しています。お楽しみに~~
これ、実はちょっと怪しい 575 ですね:「5/7/5」の読み方によっては 575 ではなくなりそうです。 ↩︎
なお、「そこで切っても違和感が少ない」と感じた場合は、文節の切れ目以外で区切ってもよいだろう、というのがわたしの 575 判定主義のひとつです。
例えば、この記事のタイトル「日本国憲法に見る 575」は 575 になるよう意図したものですが、「日本国/憲法」は文節で切れてるわけではありません。「日本国憲法」は固有名詞なので、厳密にはもちろんこれを切るべきではありませんが、意味に立ち返ればこれは「日本国の/憲法」であるゆえ、まあ文節相当の切り方がなされていると考えられます。まあこの辺は本当に個人差ではないでしょうか ↩︎これは 5 音なのか? と突っ込まれそうですが、わたしはこれを 5 とみなして差し支えないと思っています。というのも、母音が融合することで、「いう [iu]」は発音としては「ゆー [ju:]」に化けるため、ここの 6 音目は "セーフな" 字余りとできるからです。 ↩︎
これらの単語は、どれもゲーム「ピクミン2」に登場するお宝の名称です。語末が「い」「う」「ー」「ん」で終わる 6 音の名前が奇跡的に揃っていました。すごい ↩︎
「必死に探して見つけた四つ葉のクローバーに価値はあるのか?」に通ずる問題がありそうですが ↩︎
本当は、ここで「文章を入力すると、そこに含まれた 575 を自動で判定してくれるツール」を作って traP っぽさを出すつもりだったのですが、それを作るよりも自分で 575 を探した方が速かったので、この案はあえなくボツになりました。 ↩︎
PC ならマウスオーバーで探せます ↩︎
これ自身は artifical ですね ↩︎