こんにちは。サウンド藩のリキッドです。普段はこんな音楽を作っています。
まえがき
ベストアルバムn選も今回で5回目。最初は5枚選んでいたのですが、昨年度は10枚、今年度は15枚に膨れ上がってしまいました。
まぁ今年度はそれだけ多くの音楽に触れることができたということなので、ヨシとします。
そうは言ってもただただ15枚並べるのも芸がないので、今回は5部門に分け、それぞれ3枚ずつ選出することにしました。今回設けた部門は以下のとおりです。
- Electronica部門
- Pops部門
- Synthwave部門
- Acoustic部門
- Underground部門
よく聴くジャンルが上の3つ、それ以外の雑多なアルバムはざっくり下の2つに分類されています。気になる部門だけ聴くもヨシ、新しい音楽との出会いを求めて全てチェックするもヨシ。
あとオマケでClub Music部門も設けてあります。クラブミュージックは特性上シングルでのリリースが多いため、「ベストアルバム」という枠からは外れてしまいますが、それでも紹介したい作品がありましたので記載しています。
昨年度までの記事は以下の通り。
Electronica部門
この部門では、クラブミュージックに分類されない電子音楽を選出しています。「エレクトロニカ」というジャンル自体が包含する範囲が広い上に、以下に紹介する作品がいわゆるエレクトロニカであるかというと、必ずしもそうではないのですが...。本来のエレクトロニカとは、クラブミュージックではない流れに位置する電子音主体の音楽という意味だったらしいので、そういうことです。
Romantische Technologie / Pablo Di Cioccio (2013, 伊)
ジャケットからサウンドまでオールドスクールな、Synthpop作品。使われている音色は70年代~80年代の雰囲気全開なのですが、妙にきっちりクオンタイズされていたり、現代らしく抜けの良いサウンドになっていたりと、その奇妙なアンバランスさも面白いです。
作者はマイナーなエレクトロ作家かと思っていましたが、どうやらイタリアのオーボエ奏者のようです。一体どうして良い曲ばかりで、クラシックの雰囲気はほとんど感じられません。アンビエント的な曲も他所でやっているようで、目が離せない作曲家です。
Transmission 01 / Telestation Alpha (2019, デンマーク)
こちらはデンマークの、いかにもニューウェーブといった感じの空間デカ目サウンド。いかにも北欧という雰囲気の、荒涼とした、ザラザラした質感が心地よいです。打ち捨てられた通信局から人知れず垂れ流されるラジオ放送の情景が浮かぶようです。在りし日のソビエトのような雰囲気すら感じさせる、退廃的で鬱屈したメロディーも乙。
Black Devil Disco Club Presents: Cosmos 2043 / Bernard Fevre, Black Devil Disco Club (1977, 仏)
ごく一部の界隈でカルト的な人気を誇るという、Bernerd Fevreによる1977年の作品。極めて古いSF映画やドラマシリーズの音楽ってこんな感じよね、という時代に思いを馳せずにはいられません。当時まだ高価だったシンセサイザーをふんだんに用いた、古の未来観溢れる、どこか牧歌的で寂しげな1枚です。
Pops部門
この部門では、いわゆるポピュラー音楽を紹介するつもりでしたが、そういうたぐいの音楽はあまり聴かないため、もはやポピュラーと言えるであろう歌モノのジャンルも包含することにしました。なので1枚はどう考えてもProgressive Metalです。でもまぁプログレも今や一般的な音楽ジャンルだと思うので、ある意味ポピュラー音楽ではあるでしょう。そういうことにしてくれや。
Whenever You Need Somebody / Rick Astley (1987, 英)
80年代ポップの名曲「Never Gonna Give You Up」が収録された、Rick Astleyによる1987年のアルバムです。氏はほぼこの曲だけの一発屋という印象で、実際全体通して同じような曲が続くのでまぁまぁ納得ではあります。その感じも当時らしく、それはそれでもはやいいのではとも思ってしまいますがね。当時最先端のPCMドラムマシンのドスドスしたサウンドが心地よいです。声だけ聴くと黒人ソウル歌手みたいな印象を受けますが、PVを見てびっくりするところまでがセット。PVの絶妙なダサさが現代インターネットでウケて、ミーム化したなんていう逸話もあるそうですよ。
Débranche / France Gall (1984, 仏)
昨年紹介したFrance Gallですが、今年も結構な回数聴いてました。やっぱり80年代のFrance Gallがお気に入りです。うーん、あんまり書くこと無い。この作品もとても好きですが、やっぱり比較しちゃうと昨年紹介した「Babacar」のほうがお気に入りですね。この作品から3年後の作品というのもあり、より洗練された感じがするんですよね。
それはそれとしてやっぱり美人過ぎる。Wikipediaに載ってる65年の彼女の写真を見てください。破壊力凄まじいですよ。
Feary Tales for Strange Lullabies: The Dome / 6:33 (2021, 仏)
プログレッシブ・メタルの中でも、私は特にシンフォニックな奴が特に好みなので、一昨年はDiablo Swing Orchestraを紹介しました。DSOは中学の頃からずっとファンなので、いつか来日してくれないかと夢見ているのですが、そんな彼らの最新作、曲はいいものの音が非常に悪かった。というわけで次なる変態プログレ・メタルを探していたのですが、そこでヒットしたのがこのバンド。初期からはしばらく真っ当な(?)変態メタルという感じだったのですが、この作品ではSynthwaveやオーケストラサウンドなどを大々的にフィーチャーしており、なんだかもうよくわからないメタルに仕上がっています。あと音がいい。ドラムの粒立ちが非常に好みです。
Synthwave部門
この部門では、私が好きなジャンルの1つ、Synthwaveをご紹介します。レトロ・フューチャーな世界観と太いアナログシンセサウンドが特徴のジャンルですね。近年では他ジャンルとのクロスオーバーや、劇伴での活用など、裾野が広がって成熟しつつあるため、なかなかおもしろい作品に出会うのが難しいですが、旧作含めて3枚の選出です。
Metal Heart / Code Elektro (2024, デンマーク)
もう明らかにTronとかBladerunnerとかそういう奴です。公式サイトにもそう書かれている。現代版にアップデートされたSF音楽という意味で、Synthwaveのまさに王道最先端の風格です。正直性癖ど真ん中どストライクで、今年入ってから一番聴いてるのではないでしょうか。オススメです。
Revenge of Sunset / Neon Droid (2016, ハンガリー)
非常にスタイリッシュな、クライムアクション映画の劇伴風味Synthwave。GTA6はこんな感じの雰囲気に成りそうな感じありましたよね。Synthwaveにしてはかなり垢抜けた雰囲気の、カッチョイイアルバムです。同じモチーフがさり気なく再利用されてたりするのも好印象。
Breaking News / Makeup And Vanity Set (2019, 米)
これはもうSynthwaveなのか?という感じではありますが、いちおうSynthwaveを言い張ってるらしいです。都市伝説的な恐怖がテーマなのかな?ホラー・ミステリー映画的な表現も行けるぞ、という懐の深さもSynthwaveなのかもしれません。ダウナーな感じが新鮮です。
Acoustic部門
この部門では、生楽器を活用したジャンルを包括的に紹介します。具体的にはFolk、Orchestra、Epic、Classicalなどが含まれると思います。要はクラシックとか劇伴とか、あとは民族音楽的なやつも入ってるってことです。
原神-流星の軌跡Vol.2 (Original Game Soundtrack) / HOYO-MiX (2023, 中)
今年も原神から1枚。本作にはバージョンアップの際に放映されるPVで使われた楽曲が収められています。特に整数番台アップデートの際は新しい国が追加されるため、非常に力の入った曲が制作されます。本作では1曲目がそれに当たります。Ver3.0では、インド、アラブ、北アフリカなどの古代文明をモチーフにした大国スメールが実装されたため、民族楽器とダブルハーモニックスケールなど半音階を多用する妖しい雰囲気の楽曲が印象的でした。そのバージョンを象徴するかのように、大々的なオーケストラ+シタールや笛類で全体の雰囲気を設計し、そこに電子音楽やドラムンベース、ダブステップなどの要素も盛り込んだ、過去イチモリモリの大作に仕上がっています。
Ikivirta / Sarah Palu (2020, フィンランド・仏)
フィンランドとフランスにルーツを持つ、カンテレ奏者兼ボーカリストのSarah Paluによる、穏やかな雰囲気の1枚。羨ましいほど抜けるような透明感のある声質が、これまた涼しげなカンテレのサウンドとマッチしています。しかもただカンテレを奏でるのではなく、多重録音とエフェクターによる特殊効果まで含んだトータルコーディネートになっており、複雑で有機的なサウンドスケープを作り上げています。北欧らしい荒涼感と、どことなく懐かしさを感じる秀作です。
Mosolov: Complete Works for Solo Piano / Alexander Mosolov, Olga Andryuschenko (2016, 露)
ドイツを拠点に活動するロシア人ピアニストOlga Andryuschenkoによる、Alexsander Mosolovピアノ曲全集です。ロシアン・アバンギャルドの代表作家として知られる(知られてない)Mosolovの、特に初期のアバンギャルド全開な楽曲が非常に好みです。さすがソビエト当局に敵視されただけのことはあり、不安感を煽るような破壊的な曲ばかりが収録されています。Mosolov自体の知名度の低さや楽曲の難しさなどもあって、演奏がかなり少ないのですが、このアルバムは非常に音が良くて大変重宝しています。
Underground部門
この部門では、比較的アングラなジャンルをご紹介します。アングラと言いつつ、もはやジャンルとして成立しているものばかりなので、マジのアングラではないですね。今の時代にアングラな音楽というのも出現しにくいわけですが、マイナーなジャンルが入ってると思ってください。
w w w . d e e p d i v e . c o m / Webinar™ (2021, 不明)
Vaporwaveというジャンルにはあまり明るくないのですが、少なくともこのジャンルもすでに人口に膾炙して、すっかりありきたりなものになってしまいました。そんなVaporwaveですが、最近はテープ感やレコード感を過剰に演出しているきらいがあり、個人的にはあまり聴いていられないというのが本音でした。そんな中で、90年代後期から00年代初頭にかけての安機材にありがちな絶妙なローファイ感を見事に醸し出し、クーラーの効いた真夏の夕方に、Windows2000マシンをカチカチやっている、ありもしない記憶を蘇らせるかのようなサウンドを打ち出してきたのが本作。サンプルベースの遅回しがVaporwaveの特徴ですが、本作はむしろニューエイジ的なテキトーさと相反するような緻密な打ち込みが成されているように思えます。非常に丁寧な作りの良作です。
バビロンの空中庭園 上 / desert sand feels warm at night (2019, 英)
いかにもニューエイジ!アンビエント!という浮遊感のVaporwaveです。こちらもまた打ち込みが非常に緻密で、そのうえ1曲1曲が長く密度が高い。しかもさらにタイトルから分かるように、本作なんと2枚組。とんでもない超大作です。アルバム全体がひとつなぎの音声になっており、音に身を委ねて繰り出される情景を楽しめるのも良いですね。個人的に一つ気に食わないのが、Spotify版のアルバムアートがBandcamp版のと異なること。Bandcamp版は、超チープな3Dゲームのガビガビのスクリーンショットのような画像で、楽曲の世界観とも非常によくマッチしていると感じます。古代文明の噴水の脇のベンチで、日光浴と思索に耽る。そんな妄想が膨らみます。
Precious Solitude / Sunken Grove (2020, 英)
Dungeon Synthからも1枚。私事ですが、昨年は「ごんばこんなか」様のDungeon Synth作品にかかわらせていただき、私のサークルからもEPを1枚リリースしました。ミニマルなぶん雰囲気づくりが非常に難しく、昨年紹介したTales Under the Oakとともに本作も非常に参考になりました。ひとくちにDungeon Synthと言ってもいろいろで、Tales~はFM系ベルとPadを多用したデカくクリアな空間が特徴ですが、Sunken Groveはもっとガサガサした減算型シンセを最低限用い、テープノイズもでっかく乗っています。どちらも仄暗い雰囲気ではありますが、前者がハイファンタジー的なワクワク感を持つのと対象的に、後者にはダークファンタジー的な悲壮感が漂います。Dungeon Synthの奥深さを知った1枚です。
おまけ Club Music部門
ここからはシングルです。しかもHardstyleしかありません。いわゆるクラブミュージックを好んで聴くわけではないのですが、ミックスやマスタリングのリファレンスとして用いることは往々にしてあるためチェックすることもあります。その中で、たまたま出会った良作を3枚ピックアップしています。
Lambada (Your Love) / Da Tweekaz, Tony Junior, Sound Rush (2022, 蘭・ノルウェー)
Hardstyleにレゲエを混ぜました!という感じの、エモーショナルでありながらどこか底が抜けた明るさを感じる1曲。1st DropがまったくHardstyleではないところがニクいですね。「ジャケット以外かっこいい」と言ったら先輩に叱られました。
BASS IS KICKING / Fraw (2023, 独)
最近密かに流行りつつあるというBell Kick。オーソドックスなHardstyleよりはるかに高いピッチのキックを用い、キック自体が広い音域のメロディーのようなものを構成し、攻撃的なのが特徴です。正直最近流行りのGateが掛かった短いキックのHardstyleはあまり好みではないので、こっちが流行ってくれと願っています。
Hiding / Dual Damage (2023, 蘭)
同じようなコンセプトのBell Kickですが、こちらはちゃんとEuphoricです。音がデカすぎる。正直展開がクドいなと思いますが、DJ用としてはそのぐらいのほうが使いやすいんですかね?
おわりに
いかがだったでしょうか?2023年度はなぜかフランス勢が非常に多くなりました。あと書きながらわかったのですがデンマークも2枚入ってますね。2024年度はデンマークを掘ってみようかなぁ。あと個人的に気になってるのがインド。人口もいっぱいいるし、踊るの大好き民族なので、独自のクラブミュージック的なのが発達してたりしないのかなぁ、というのが最近気になるところ。
今年度もたくさん聴くぞ~。
あしたは@ramdosの記事です。お楽しみに。