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2020年4月30日 | ブログ記事

巨大数のススメ

この記事は新歓ブログリレー2020 53日目の記事です。


19のkegraです。
突然ですが、みなさんは大きい数は好きですか?僕は好きです。
どれくらいの数ならば「大きい」と感じるかはその人の感覚次第というところではありますが、より「大きい」数はより「すごい」 感じがするという点については共有して頂けるかと思います。
「大きい数」と「それほどでもない数」を見比べてみましょう。

大きい数

-------2

それほどでもない数

---5

前者の方が勢いがありますね。
このように、大きい数には迫力があることがわかります。

本題

世の中には「ただひたすらにでかい数を作ることに憑りつかれ、でかい数を生み出す方法を日夜追い求めている」人々がいます。彼らの築いた世界は巨大数論(グーゴロジー)と呼ばれ、ニッチな数学の1ジャンルを形成しています。この記事では巨大数の世界のことをちょっとだけ紹介したいと思います。


子供のころに「一番大きい数を言ったやつが勝ち」という遊びをしたことのある人は多いかと思います。[1]これに本気で取り組むとした場合、どのようなやり方が有効でしょうか。

ナイーブな手としては「無量大数!無量大数!」などと叫ぶ、あるいは9をたくさん並べるといった手があるように思えます。しかし少し考えると、これは大して有効な手ではないことが分かります。

例えば9を100個並べたとしても10のn乗はなので、 とでも書けば簡単に超えられることが分かります。
また無量大数は であり、宇宙にある素粒子の数が約 個であることを踏まえると、無量大数は宇宙にすら届かない意外とショボい数であることが分かります。なので、でも高々未満ですね。

より大きな数を得るにはどうすればいいのでしょうか?どうやら普通の方法では大した数にはなかなかならなさそうです。そこで、大きな数そのものではなく大きな数を生み出す「方法」を検討します。

どうやらべき乗を使うとより効果的に大きな数が作れそうです。

繰り返せばもっと強そうです。

この繰り返しの数を一般化するとさらに強そうです。
そこで、このn個のべき乗の繰り返しを以下のような記号で定義します。

これはクヌースの矢印表記と呼ばれているものです。
この表記法は日常生活に出てくる数字からすれば十分に強く、という数字になり、なのでこの時点で宇宙に存在する素粒子の数を凌駕します。
しかしまだ弱いです。続きがあります。

矢印3個の場合を以下のように定義します。

後はお分かりですね。これを繰り返します。

n個並んだ矢印をと表現すると、一般には以下のようになります。

この方法であれば、これまでの方法からは想像もつかないような巨大数を矢継ぎ早に生み出せます。
は宇宙の素粒子の数よりも大きいどころか、宇宙の素粒子全てをインクに費やしたとしてもその10進表記を印刷することすら出来ません。つまり、比較対象として宇宙を使ったり、大きさの物差しとして対数を使う意味はここで無くなります。

これくらい大きな数を作れれば満足でしょうか?いいえ、満足ではありませんね。
どうすればさらに大きな数が作れるでしょうか?

矢印の数を大きな数にすればすごい数になりそうですね。

これは非効率です。入れ子にしてしまいます。つまり、矢印の数として「矢印表記から生み出される巨大数」を使います。

もっと入れ子にしてしまえばさらに強くなります。

このようにして63回ほど入れ子にして生み出される巨大数が、かの有名な「グラハム数」です。
これの大きさはどれくらいでしょうか。とっくの昔に宇宙も対数も使えないんですから、良く知っている物差しでは測れません。巨大数は私たちに既存の枠組みの無力さをわからせてきます。

矢印表記やグラハム数は巨大数の世界の中でもかなり小さい方です。巨大数論の世界ではこれよりも遥かに大きい数、遥かに急増大する関数が沢山出てきます。その中には矢印表記をベースに更に拡張した表記なども含まれます。

巨大数の楽しさ

巨大数の世界には色々な強い[2]関数が出てきます。それを理解するのも楽しいですし、あっちとこっちではどっちの方が強いのかを計算して比較するのも楽しいです。しかし僕としてはやはり、巨大数の一番の面白みは「自分で巨大数を作ること」ではないかと思っています。そしてそれは素朴な「一番大きい数を言ったやつが勝ち」という遊びを、本気の戦いへと数学的に正しく導いたものです。どっちの方が強いのか、それは数学が厳密に[3]決めてくれます。

巨大数のもう1つの醍醐味は「自由かつ分かりやすいこと」だと思っています。
高等数学での議論は奥深いですが、ともすれば所謂 ♰なにがうれしいのか♰ が初学者には分かりにくく面白味が直ちには分かりにくいことも多いように思います。
巨大数の議論のモチベーションは 「でかい数ができると…楽しい!」 という一点に集約されます。そしてでかい数をつくるためであれば何をやっても構いません。[4]先ほどやったように繰り返しや入れ子で強くしてもいいですし、全く違うアプローチで強くしてもいいのです。そしてそれでどれだけ強い結果になったかを解析[5]しながらニヤニヤしたり試行錯誤したりします。

もしこの記事で巨大数に興味を持ってくれたなら、1つ自分でオリジナルの巨大数を作ってみる、あるいは矢印表記をより強くする拡張を1つ考えてみるのはいかがでしょうか。それを下記の書籍・サイトなどで知識を付けた上で強さ大きさを解析してみるのも一興かもしれません。

入門書としては「巨大数論」がpdfで無料公開されています。(https://gyafun.jp/ln/)
また、巨大数研究Wiki(https://googology.wikia.org/ja/wiki/巨大数研究Wiki)には様々な情報が集積されているほか、議論も活発に交わされているので是非ご覧ください。

おわりに

--------1-


明日の担当者は@spa です。お楽しみに!


  1. 先日もこういうツイートがありました ↩︎

  2. 巨大数論の文脈で「(関数の値などが)より早く増大する」の意 ↩︎

  3. 巨大数を近似すると誤差も巨大数になるのはご愛敬 ↩︎

  4. もちろん数学系の常として、より簡潔な定義でより大きな成果を出した方が芸術点は高い ↩︎

  5. 本文中で「対数などが物差しとして役に立たない」と書きましたが、巨大数には巨大数用のヤバい物差しがあります。(具体的にはFGHなど)その物差しですら測ることが難しいものも ↩︎

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