この記事は新勧ブログリレー2020 72日目の記事です。
キャラモデリングをしよう知ろう
こんにちは、グラフィック班に所属している@d_etteiu8383(でっていう)です。traPのグラフィック班では、主にイラスト・ロゴなどの制作・デザインを行っていますが、プロジェクトによっては3Dモデルを利用した制作を行うこともあります。また、近年のVtuberブームにより、3Dモデリングに興味を持っている方も非常に多いと思います。そこでこの記事では、キャラモデリング未経験の方向けに、"手を動かす前にまず知っておいてほしいこと"をご紹介します。100%理解する必要はありませんし、理解してもらおうともあまり思いません。「なんかよくわからないけどそういう概念があるんだな」程度の認識でも十分です。大事なのは知識の引き出しを広げることです。
なお、この記事では特定のソフトにおける具体的な操作説明等は一切しません。「早速blenderをダウンロード...」とかもしません。blenderをダウンロードする前に知っておいて欲しいこともたくさんあるからです。
この記事に書いていないこと
- blenderのダウンロード方法
- blenderの操作方法
- Vtuberになる方法
- MMDの使い方
- Unityでのモデル利用方法
この記事に書いてあること
- 筆者のお気持ち表明
- 3DCGの超基本的な描画原理
- 3DCGの利用例
- VRoid Studioの宣伝
この記事は、3Dゲーム・Vtuber・MMD等の"3Dキャラクターモデルを用いた制作"に興味があるが、まだほとんど知識を持っていないという方をターゲットとしています。制作における各手順の詳しい解説などはせず、制作に対する考え方についての内容が多いことにご注意ください。
3DCGの利用は非常に奥が深く、幅も広いため、この記事ではそのほとんどが説明できておりません。
この記事はあくまでも参考とし、ご自身で調べることも大事にしていただきたいと思います。
また、記事内に誤り等を発見した時は、コメント欄や筆者のTwitterにて指摘していただけると大変助かります。
本当にキャラモデリングが必要ですか?
モデリングに興味のある方にまず考えて欲しいのは「本当にモデリングをする必要があるかどうか」です。というかこれがこの記事で皆さんに一番伝えたいことです。近年のVtuberブームにより、漠然と「なんかモデリングってのをやると美少女になれるらしい」といったイメージが生まれ(自分調べ)、モデリング解説記事等も急増しました。しかし、モデリングなんて面倒なことをしなくても目的を達成できる場合も多いのが事実です。モデリングよりも簡単な解決方法の検討は大切です。少し極端な例ですが、「オリジナルキャラクターがウッーウッーウマウマ(゚∀゚)しているアニメーションを作りたい」といった時、そもそもキャラモデリング→アニメーションの手順を踏まずとも、数枚の絵を描いてループさせるだけでも実現できるかもしれません。モデルを自分で0から制作しなくても、他者が制作・販売したものを利用できるかもしれません。VRoid等のキャラメーカーを利用したほうが簡単に、クオリティも高いモデルを製作できるかもしれません(後述)。自分のやりたいこと・やりたくないこと・できること・できないこと・妥協したくない部分・妥協してもいい部分を踏まえ、目的達成のための手段を検討した結果「blenderを使おう」と決定したのなら私は止めません。しかしこのような検討をするには、やはり3DCGについての最低限の知識が必要になります。もちろん「とりあえず何もわからないけどblenderをダウンロードしていじってみる」といった行動力も大事ではありますが、適切な道順・スタートを選ぶことも大切です。
ゴールは見えていますか?
さて、上の文章を読んでなお「モデリングをやるぞ!!!!」と考えている方に次の質問です。
あなたは、今自分が作ろうとしているものの「完成形」が見えていますか?作成するモデルの見た目はもちろんですが、
- 各段階でどのようなソフトを使って製作するのか
- 最終的な出力形式は何か(動画か?画像か?ゲームに使うか?)
- どこで使うのか(PCで動かすのか?スマホで表示するのか?)
などなど考えることは盛りだくさんです。もちろんこれらの要素を事前に決定しなかったり、制作途中に大きく変更することもあります。しかし、最低限のゴールを把握しなければスムーズな制作はできません。これはどんな制作に関しても言えることですが、完成形が見えていないと作れません。特にキャラモデリングにおいては、最終的な出力内容によって制作序盤から方針が大きく異なることが多いです。
ということで、まずこのセクションでは3DCGの仕組みをおおざっぱに説明し、いつ/どこで/どのように3DCGを利用するべきか(あるいはするべきでないか)を説明し、皆さんに3DCGの"ゴール"を何となく理解していただきたいと思います。
3DCGの仕組み
そもそも3DCGとは"コンピュータを用いて、仮想的な3次元空間上に置かれた立体物の情報を2次元平面上の情報に変換することで画像を生成する手法"です。静止画・動画・ゲーム・VRなど、最終的な出力形式が何であれ、この基本的な仕組みは同一です。
この工程の中で、"仮想的な空間上に立体物を置く"のが人間がする仕事であり、「モデリングをやってみたい!」と思っている人の多くが想像しているのもこの工程だと思います。確かに"モデリング"が指すのはこの工程ですが、制作を行う上では後半の"2次元平面上の情報に変換する"工程についても最低限の理解が必要です。実際にどのような処理が行われるのかを詳しく知る必要はまだないと思いますが、「モデリングしたあと、二次元に変換する工程が存在するんだ」と、常に頭に入れておくことは重要です。
3DCGには、直線・平面をもとに描画をするもの、曲面をもとに描画をするもの、粒子をもとに描画をするもの等、さまざまな技法があります。ここでは最も基本的で、キャラモデリングで通常利用されるポリゴンによる表現について説明します。
ポリゴンによる表現
ポリゴンによる3DCGは簡単に言うと、「3次元空間上に置かれた平面を二次元平面(スクリーン)に移し、映すことにより作られたCG」です。より具体的に理解したい方は"ポリゴン 座標変換 3D 描画 仕組み"等で検索してみてください。
我々がモノの"見た目"を認識する際、重要なのはそのモノの"形状"と"色"の情報です。ポリゴンによるCGではモノの形状を面の位置で、モノの色をその面の色で表現します。
基本的には、「三次元空間上に頂点・面を配置→各頂点の座標等を用いた計算を行い、二次元平面に映し出す」といった処理を行うことで画像を描画します。
この中で、"頂点・面を配置し、各面の色情報や質感・材質を設定する"のが人間の仕事です。色や材質を設定するのにテクスチャやマテリアルを用います。この過程をモデリングと呼び、これを行うソフトウェアをモデラーと呼んだりします。
また、肘関節や顔の表情、車のハンドルやドアの動きなど、ただ面を配置するだけでは表現できない"モノの動き"を表現するための技法もいくつか存在します。キャラモデリングでは通常ボーンアニメーションとブレンドシェイプが利用されます。これらのアニメーションを表現する過程では、コンピュータでたくさんの計算が行われます。
また、"各頂点の座標等を用いた計算"の過程をレンダリングと呼び、これを行うソフトウェアなどをレンダリングエンジン、レンダラーと呼びます。この"計算"では主に、頂点座標の変換や光の反射・拡散による見え方の計算を行っていますが、とにかくたくさん計算を行っています。レンダリングの計算方法にはさまざまな種類があり、用途に合わせて使い分けます。
計算量をやたらと強調していますが、3DCGの利用において、"どのくらい計算をしているか"というのは結構重要な問題です。
我々がVtuberの配信やMMD、3Dゲームでのキャラクター表示で見かける映像は、コントローラー操作等による情報の入力に対応して即座に(リアルタイムに)レンダリングし、出力したものです。
このようなインタラクティブ性が求められる場面では、いかに素早く応答できるかが重要なので、計算量がなるべく少なく、短時間で画像が生成できるようなレンダリングを行う必要があります。その為には、スペックの高いマシンを用いて計算するのは勿論ですが、モデリングの段階から計算量が少なくなるよう注意する必要があります。上に述べたように、たくさんアニメーションをさせたり、複雑な光の反射等を表現するには大量の計算が必要です(いわゆる"重い"状態になる)。逆に言えば、過剰なアニメーションや複雑な光の表現を諦める、もしくはより計算量の少ない手法で代替することで、計算量を抑え、リアルタイムでのレンダリングも可能になります。とにかく「ゲームやVtuberでモデルを利用したい」という方は、モデリングの段階からこのような工夫をする必要があるかもしれないということを覚えておいてください。
一方、車のCMや映画で使われるような写実的なCGや、ピクサーの映画、その他3DCGアニメなどに使用される映像は、数分から数時間(長いものでは数日)かけてレンダリングを行って作成しているものです。このように、インタラクティブ性が求められない場面では、事前にレンダリングを行って画像・映像を生成することがほとんどです。これをプリレンダリングと言います。
この、リアルタイムCGとプリレンダリングの二つの手法の違いはかなり重要なので覚えておきましょう。
最低限知っておいてほしいまとめ
- "モデリング"は3次元空間上に頂点・面を配置し、各面がどのような色・質感を持つか指定する作業
- "レンダリング"は3次元データから二次元画像を生成する計算過程
- ゲーム等ではリアルタイムにレンダリングが行われる
- MMD、Vtuber、3Dゲームはリアルタイムレンダリング
- 静止画・映像作品は基本的に事前にレンダリング(プリレンダリング)されたもの
- CM、映画、アニメはプリレンダリング
Q. いつ・どこで3DCGを使うのか
実際に3DCGが用いられる場面としては、以下のようなものが挙げられます。
3Dゲームを作るとき
当然と言えば当然ではありますが...キャラモデルの利用が特に活発なのはこの分野でしょう。近年のスマートフォンや携帯ゲーム機のスペック向上により、据え置き機以外にも3DCGを用いたゲームが増えましたね。
例:アリス・ギア・アイギス、モンハン、デレステ、ポケモンなど多くのゲーム
手描きでは難しいアニメーションを作りたいとき
キャラクターにダンスなどの複雑な運動をさせたいとき、適切なモデルさえ用意できれば、関節の破綻が少ない映像を作ることができます。3DCGの強みはこの"アニメーションのしやすさ"だと思います。手書きだとなめらかなアニメーションをさせるには大量の絵を描く必要がありますが、3DCGでは比較的簡単に作成ができます。また、あえて手描きアニメーションっぽい映像を3DCGで作成したり(セルルックと呼ぶことが多いです)、手描き・3DCGの両者を活用する映像作品も最近よく見かけるようになりました。ダンスシーンのあるアニメや、ロボットの登場するアニメでは数年前から3DCGが活用されていました。このような映像作品を作りたくてキャラモデリングに興味を持ったという方も多いのではないでしょうか。
例:ダンスシーンのあるアニメ(プリキュアのエンディングやプリチャン)、体を大きく動かす戦闘シーンのあるアニメなど
現実世界・写真で表現することが難しいとき
分かりやすい例としては映画『アイアンマン』や『スパイダーマン』等の、実写映像に写実的なCGを合成したものです。「かめはめ波を撃つ映像を作りたい」、「馬が逆立ちしている映像を作りたい」といったときも、かめはめ波の練習をしたり馬に逆立ちを教えるより3DCGで表現するほうが楽だと思います。
例:多くの映画、コマーシャルなど
似ているものを何個も使いたいとき
鳥の群れや観衆、武装兵団など"常に動きまわっているうえに数が多い"ものや、背景に転がる無数の石などの"全部同じ見た目だと違和感がある"ものなども、ベースとなるモデルを作ってしまえば比較的簡単に量産・アニメーションが可能です。
例:映画の群衆、動物の群れの映像など
物理的な破綻の少ない画像を手軽に作りたいとき
モデリングソフトの中には、物理エンジンを搭載したものも存在します。この機能は、布状の物体が風になびく様子や、物の揺れ、流体・物体同士の衝突などを、リアルに再現することができます。手描きでは表現が難しい水の流れや、たくさんのボールが複雑にぶつかりあうシーンなどを比較的簡単に制作出来ます。
例:ドレスなどの布の動き、ボールの投擲など
キャラモデリングをしません
ここまで読んでまだ「自分で0から作りたい!!」と思っている方がいるかはわかりませんが、「考えることが多くてめんどくさそう」という方は多いと思います。実際、キャラモデリングは
- 考えることが多い
- そもそもパソコンの扱いに慣れていないと制作が非常に難しい(コンピュータグラフィックスなので当然コンピュータと戦うことになる)
- 0から作ると完成までが非常に遠い(完成形が見えない状態での制作になる)
といったこともあり、初心者が0から始めるには難易度が高いです。僕もモデリングよくわかってません。技術的な難易度が高いのはもちろんですが、完成形がなかなか見えないことによる心理的ダメージはとても大きいです。だからこそ僕はあえて言います。
キャラモデリングを0から始めないでください。
何度でも言います。
キャラモデリングを0から始めないでください。よっぽどのやる気と努力がない限り絶対に挫折します。挫折しなくとも後悔します。あなたのゴールは「モデルを利用して楽しむこと・遊ぶこと」のはずです。絶対に「モデリングに苦しむこと」ではないはずです。だからこそ初心者の方にはまずモデリングの楽しい部分だけ味わってもらい、そこから始まる遊びの中で3DCGの仕組み・使い方・できること・できないことを自身で体験し、スキルアップしてほしいんです。上でも言いましたが、ゴールが見えていないとモデリングはできません。だから最初に、スタートをする前に、まずはゴールを見てほしい。
でもどうやってスタートもせずにゴールをするのか?
別にあなたがスタートしてあなたがゴールする必要はありません。誰かの作ったゴールを見るだけでも勉強です。3Dゲームをプレイする時・Vtuberの動画を見るとき・MMD作品を見るとき・アニメを見るとき、上で説明した最低限の3DCGの知識を思い出しながら見てみてください。「こうやって3DCGが使われているのか...」と考えながら楽しんでください。そうした経験の中で「こういうときは3DCGを使うとよい」「このキャラクターのこの部分がかわいい/かっこいい」「この作品の表現方法が好きだ」といった感想を持つことができれば立派な勉強です。その得られた感覚は、自分なりのゴールを決定する時の参考になるはずです。
そして何となくゴールがわかったら、0からモデリングを始めま...せん。させません。もう一度言いましょうか?
まだスタートはしません。今度はあなたがゴールする番です。スタートせずにゴールする方法はまだあります。誰かがゴール直前まで作ったものを拝借しましょう。配布されているMMDモデルや、販売されているキャラクターモデルを購入したりして自分でいじって遊んでみましょう。誰かが作ったモデルにポーズを付けてレンダリングするだけでも得られる知識はあります。
ここまで読んで何となく理解していただけたとおもいますが、僕は0→10の制作をお勧めしません。まず1~10を理解して初めて、0に手を付ける資格が得られるのです。というのも、キャラモデリングにおいては、最終的な出力形態によってスタート地点・手順が大きく変わることが多く、知識を持たないまま始めてしまうと後々困ることになってしまいます。
だから僕は9→10,8→10,7→10,...,1→10,0→10の制作をお勧めしています。ゴールから少しずつ遡って、0から始めるための知識を付けていく学習です。この方法は一見効率が悪いように思えますが、初心者のうちは完成像までの道のりが近く、挫折しにくい学習法だと思います。
これを踏まえて、初心者の方にはVRoid Studioというモデリングソフトをお勧めします。
VRoid Studioとは
VRoid Studioは、人型アバター(キャラクター)の3Dモデルを作成できるWindows・Mac用アプリケーションで、どなたでも無償でご利用いただけます。作成した3Dモデルは、VR/ARコンテンツ内でアバターとして利用するなど、商用・非商用を問わず、さまざまな用途に活用できます。
上記のように、VRoid Studioは無償で利用することができるモデル作成ツールです。動画をご覧の通り、絵を描くようにモデリングをすることができます。上の動画では液タブを使っていますが、マウスだけでの制作も可能です。
VRoid Studioのここがいい
初心者の方にVRoidをお勧めする理由はたくさんありますが、特に大きな利点として
- 完成像が見えている
- やる気の継続
- パラメーター指定による体型の編集
- 細かい修正が比較的楽
- 再現性が高い
- キャラモデリング以外の機能がない
- これは初心者にとっては非常に大きなメリットで、何をすればモデルが完成するのかが明確
が挙げられます。キャラメイカーやモデリングソフトは多数存在しますが、VRoidはこれらの中間的な存在だと思います。「簡単すぎず、難しくない」「最低限の3DCGに関する技術の理解は必要」である点は、初心者の導入にぴったりだと思います。
下のツイートは、モデリング初心者の知人が実際にVRoid Studioを使って製作した例です。
4/24にVRoidを使い始めたそうなので、3週間程度でここまでできたことになります。なお、このモデル製作では、以下のテクスチャ素材を使用しています。
100%自分で作ることにこだわる必要はありません。上の例のように、まずはいろいろなリソースを活用し、自分で「もっとこうしたほうが良いかも」と思ったときに、他人の制作を参考に自作してみれば大丈夫です。この繰り返しが制作における"あなたらしさ"になります。アイデンティティは0から作ったときにのみ生まれる物ではありません。
まとめ
ここまで長々と話しましたが、僕の伝えたかったことは理解していただけたでしょうか。
- 本当にキャラモデリングが必要か考えた?
- 自分のやりたいこと・やりたくないこと・できること・できないこと・妥協したくない部分・妥協してもいい部分は把握できてる?
- ゴールは見えてる?
- 3DCGの仕組みは何となく説明できる?
- いつ・どこで3DCGが使われるのか知ってる?
- 0から始めないで!
もちろんこれはあくまでも僕個人の意見であり、違った学習方法を推奨する方もいると思います。「俺は0からモデリングをやるぞ!!フルスクラッチ最高!!!!」という方を止める気はありません。とにかくこの記事があなたのモデリングのスタート地点になれば幸いです。文章だらけの記事になってしまいましたが、ここまでの閲覧ありがとうございました。
明日は@mazreanさんの記事です。お楽しみに!