はじめに
こんにちは。traP アドベントカレンダー2017の12月3日担当のぱるまです。
突然ですが、単位と聞いたら何を思い浮かべるでしょうか?物理量の単位が浮かぶ人もいれば、代数学の単位元を思い浮かべる人もいるかもしれませんね。
今回は大学(学部)の単位について書きます。
単位
まず、単位とは何かを見ていきます。
一般論
大学を設置するにあたっての最低限の満たされるべき仕様を定めている、大学設置基準という省令があります。大学設置基準には単位に関することも記述されています。まずは単位の記述がある大学設置基準第21条を見てみます。
(以降、大学設置基準の条文は このサイト から太字を追加して引用します。)
第二十一条 各授業科目の単位数は、大学において定めるものとする。
2 前項の単位数を定めるに当たつては、一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成することを標準とし、授業の方法に応じ、当該授業による教育効果、授業時間外に必要な学修等を考慮して、次の基準により単位数を計算するものとする。
一 講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。
二 実験、実習及び実技については、三十時間から四十五時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。ただし、芸術等の分野における個人指導による実技の授業については、大学が定める時間の授業をもつて一単位とすることができる。
三 一の授業科目について、講義、演習、実験、実習又は実技のうち二以上の方法の併用により行う場合については、その組み合わせに応じ、前二号に規定する基準を考慮して大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。
3 前項の規定にかかわらず、卒業論文、卒業研究、卒業制作等の授業科目については、これらの学修の成果を評価して単位を授与することが適切と認められる場合には、これらに必要な学修等を考慮して、単位数を定めることができる。
要約すると、次のようになります。
- 基本的に、1単位の科目は45時間の学修が必要な内容にするという基準がある。
- 端的に言うと、1単位=45時間の学修。
- 単位は科目の内容の量を学修時間を使って定めた尺度。
- 45時間の学修というのは、授業時間とそれ以外の学修(予習復習)時間をあわせたもの。実際の授業時間は、予習復習時間を考慮して設定される。
- 講義や演習の科目には15時間から30時間の時間の授業で1単位とする。
- 実験、演習、実技の科目については、30時間から45時間の時間の授業で1単位とする。
なお、単位は学生が学修すべき時間を示しているのではなく、科目の内容の量を表していて、1単位=45時間はあくまでも学修時間の目安です。 (人によって科目の内容を理解するのに必要な時間や理解したい程度は異なるので...)
東工大では
東工大には、各入学年毎に学修案内というものがあります。(学修案内等一覧 | 授業・履修 | 在学生の方 | 東京工業大学)
学修案内に大学設置基準21条と似たような単位の記述があります。
とりあえず2017年度入学者向けの学修案内を見てます。
「1. 総説」の「(3) 単位の取得について」に次のことが書いてあります。(太字は筆者が追加)
学修するすべての授業科目には,それぞれの単位数が規定されていて,その構成と意味は次のとおりとなります。
例えば,単位数2-1-0の場合は,その授業科目が「講義2単位-演習1単位-実験等0単位」をもって構成されていることをあらわし,講義・演習・実験等の単位数の合計3単位がその授業科目の単位数となります。
1単位の授業科目は,授業の時間外も含め45時間の学修を必要とする内容をもって構成され,その授業科目に応じ,授業時間外に必要な予習,復習等を考慮して,次の基準を原則として,計算します。
(1) 講義及び演習については,15時間の授業をもって1単位とする。
(2) 実験,実習,製図及び実技については,30時間の授業をもって1単位とする。
※ 一部の授業科目は,上記(1)の場合に30時間の授業をもって1単位,(2)の場合に45時間の授業をもって1単位とします。
(単位の規定 | 授業・履修 | 在学生の方 | 東京工業大学にも同様のことが書かれています。)
要するに、
- 単位を講義の単位、演習の単位、実験等の単位に分けて考える。
- 例えば、単位数2-1-0と書いたら、講義2単位、演習1単位、実験等0単位を表す。
- 1単位=45時間の学修 (授業外の時間(予習復習)を含めて)
- 講義、演習については、原則として15時間の授業、30時間の予習復習で1単位。
- 予習復習時間は授業時間の2倍取ることが想定されている。
- 実験等については、原則として30時間の授業、15時間の予習復習で1単位。
- 実験科目が授業時間が同じ講義科目や演習科目と比べると単位数が少ないのはこれが原因。
大学設置基準21条とだいたい同じことが書いてあり、大学設置基準21条の条件を満たしていることが確認できます。
授業の時間
東工大の場合
東工大の講義2単位(2-0-0)の科目を例に取り上げます。
学修案内より、講義2単位の科目では、30時間の授業が行われることになっていて、60時間の予習復習が想定されています。
講義2単位の科目では、実際1コマ90分の講義を15回行います。(期末試験が無い科目を考慮して期末試験は除きます)
そこで、15回の講義の合計時間を計算してみると、
90分×15 = 1350分 = 22.5時間
となります。
あれれ??????
はい。計算が合いません。学修案内によると30時間の講義が行われるべきですが、実際には22.5時間しか行われていません。講義2単位の講義時間が22.5時間というのは大学設置基準21条の「1単位の講義時間は15時間から30時間」にも反しています。 (期末テストを含めても24時間なので足りません。)
どういうことなのでしょうか。
他の大学の場合
他の大学についても調べてみます。
講義2単位の科目で何時間の講義が行われているのかを、いくつかの大学で調べてみました。
大学 | 講義回数 | 1コマ当たりの時間(分) | 合計時間(分) |
---|---|---|---|
東工大 | 15 | 90 | 1350 |
東大 | 13 | 105 | 1365 |
一橋大 | 13 | 105 | 1365 |
慶應大 | 14 | 90 | 1260 |
岡山大 | 30 | 60 | 1800 |
岡山大を除いて東工大と同様に大学設置基準21条が定める2単位講義の必要授業時間30時間(=1800分)を満たしていません。
ちなみに、岡山大はもともと東工大と同じく90分の授業15回で2単位だったのですが、2016年度から60分の授業30回で2単位となりました。(実際には、シラバスを見てみると、60分の授業を1限と2限のように2回連続(間に10分の休憩あり)で行うので、120分の講義15回で2単位という感じみたいです。)
参考: 60分授業・クォーター制導入 | 岡山大学 高等教育開発推進機構)
大学時間
大学設置基準21条を満たしていないという一見おかしな問題を解決する概念として大学時間[1]というものがあります。
東工大を例にして説明します。
東工大では、基本的に1コマ90分で授業が行われます。この1コマ90分を2大学時間と解釈してみます。(つまり、1大学時間=45分。) 講義2単位の科目では、1コマ90分=2大学時間の授業を15回行って2単位となるので、合計授業時間は30大学時間となります。
大学設置基準21条の「講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。」の「時間」を「大学時間」として解釈してみます。要するに、1時間を45分とみなして解釈しているということです。このとき、講義2単位の授業時間は30大学時間から60大学時間となります。この解釈をすると、大学設置基準21条を満たすようになります。
大学時間は大学によって異なります。岡山大の場合は、もともと大学設置基準21条を満たしているので、「1大学時間=60分」でしょう。
では、大学設置基準21条の時間を大学時間と解釈していいのでしょうか。
大学時間の正当化
文科省の大学教育部会(第6回)の議事録を一部引用します。
【金子委員】 これは幾つか問題があって,荻上委員がおっしゃった15時間と,それから15コマというか15回は同じかという問題が一つあるわけです。これはアメリカでも,1時間は,実は休憩時間10分とっていますので50分で認めている。それが今,我が国では,さらにいろいろなカリキュラム上そろえるという都合で45分にしているところが非常に多いです。私は,これは認める範囲ではないかと思うので,あえて,それを問題にしなくてもいいのではないかと私自身は思います。
大学の単位制度と学年暦(社会学部教授の論文)にも同様のことが記述されています。
海外の例としてアメリカを挙げると,週に「3時間×15
週」で3単位とすることが多い。ただし週3時間の授業形態はいくつかある。例えば,
(a)1コマ50分を週に3日
(b)1コマ75分を週に2日
(c)1コマ3時間を週に1日
(a)と(b)の場合は合計150分となる。(c)の場合には少し説明が必要で,週に1日だけ3時間連続で授業を行う場合,通常途中で10分か15分程度の休憩を入れる。また定刻よりも10分か15分程度早めに終了する。つまり,この場合でも合計はやはり150分で運用されている。結局はアメリカの大学では“1 academic hour = 50 min.”が慣例であるようだ。
(中略)
結局,大学においては「1時間は45~50分」が世界的な常識である。もちろん日本の文科省もそれを認めているので90分を2時間とみなすことを全く問題視していない。
要するに
- 大学時間は休憩時間を考慮し、「1大学時間」= 60分 - 「休憩時間など」としたもの
- 大学時間(例えば1大学時間=45分)をもって時間を解釈することは問題ない
ということです。
違う言い方をすると、大学設置基準21条に書かれた授業時間というのは、実際の授業時間に休憩時間を含めた時間であると言えます。
予習復習の時間
大学設置基準21条の授業時間として使われている「時間」というのは「大学時間」と解釈して問題ないということを今までで触れました。
では、「1単位=45時間の学修内容」の「時間」は大学時間なのでしょうか。それとも普通の時間(60分)なのでしょうか。
東工大の「講義1単位 = 15時間の授業 + 30時間の予習復習」[2]はどうなのでしょうか。「15時間の授業」というのは「15大学時間の授業」と解釈していいとして、「30時間の予習復習」の「時間」は大学時間なのかそれとも普通の時間なのでしょうか。
これについてはよくわかりませんでした。予習復習にも休憩は必要なので、大学時間で考えてもいい気はしますが、このことについて書いてある文献が見つかりませんでした。
ここでは、予習復習の時間で「大学時間を使う」か「普通の時間を使う」かで場合分けをします。
以降の計算結果は大学によって異なるので、ここでは東工大を例にします。
東工大では原則として、
- 講義や演習の1単位 = 15時間の授業 + 30時間の予習復習
- 実験の1単位 = 30時間の授業 + 15時間の予習復習
です。
授業と予習復習の時間の「時間」をどちらも「大学時間」として解釈すると次のことが言えます。
- 講義や演習の科目では、1コマの授業(90分)に対して、その授業の2倍の時間(180分)の予習復習が想定されている。
- 実験の科目では、1コマの授業(90分)に対して、その授業の0.5倍(45分)の時間の予習復習が想定されている。
次に、予習復習の時間を普通の時間(1時間=60分)で解釈して考えます。
東工大では1大学時間=45分 = 3/4時間なので、
- 講義や演習の1単位 = 15大学時間(=45/4時間)の授業 + 30時間の予習復習
- 実験の1単位 = 30大学時間(=45/2時間)の授業 + 15時間の予習復習
と言えます。
つまり、次のことが言えます。
- 講義や演習の科目では、1コマの授業(90分)に対して、その授業の8/3(≒2.67)倍の時間(240分)の予習復習が想定されている。
- 実験の科目では、1コマの授業(90分)に対して、その授業の2/3(≒0.67)倍(60分)の時間の予習復習が想定されている。
まとめると、1コマの授業あたりの想定されている予習復習時間は次のようになります。
講義, 演習 | 実験 | |
---|---|---|
予習復習に大学時間を使う場合 | 授業の2倍, 180分 | 授業の0.5倍, 45分 |
予習復習に普通の時間を使う場合 | 授業の8/3(≒2.67)倍, 240分 | 授業の2/3(≒0.67)倍, 60分 |
1週間に想定されている予習復習時間がどのくらい想定されているのか具体例で見ていきます。
筆者は現在、講義と演習科目を週に9コマ、実験科目を3コマ取っています。(1コマ=90分)
1週間の授業時間の合計は1080分(=18時間)です。また、1週間の予習復習時間の合計は
- 予習復習に大学時間を使う場合: 1755分=29時間15分 (1日あたり251分=4時間11分)
- 予習復習に普通の時間を使う場合: 2340分(=39時間) (1日あたり334分=6時間34分)
が想定されていることになります。
学修の合計時間(=授業時間+(想定された)予習復習時間)を1日当たりで考えると次のようになります。
- 予習復習に大学時間を使う場合: 405分=6時間45分
- 予習復習に普通の時間を使う場合: 489分=8時間9分
単位のキャップ制
(もし本当に上記の時間の予習復習が必要なら)科目を履修しすぎると、予習復習が十分に取れなくなるので、理解すべき内容が理解できなくなります。
例えば、東工大で、講義を週当たり18コマ分取ったとします。(想定としては週4で4コマ、週1で2コマ)
すると、週の授業時間の合計は27時間、予習復習の時間の合計は54時間となります。(予習復習の計算に大学時間を使う場合)
合計の学修時間は81時間(1日あたり11時間34分)となります。
見て分かる通り大変なので、全ての科目を(単位はかろうじて取れても)ちゃんとは理解できないかもしれません。
ちゃんと履修した科目について理解できるようにするために、大学によって、1年間の履修登録単位数に上限をかけていることがあります。これをキャップ制と言います。
キャップ制は大学設置基準27条の2で次のように言及されています。
第二十七条の二 大学は、学生が各年次にわたつて適切に授業科目を履修するため、卒業の要件として学生が修得すべき単位数について、学生が一年間又は一学期に履修科目として登録することができる単位数の上限を定めるよう努めなければならない。
2 大学は、その定めるところにより、所定の単位を優れた成績をもつて修得した学生については、前項に定める上限を超えて履修科目の登録を認めることができる。
大学設置基準ではキャップ制を設けることを努力目標として定めていて、成績優秀ならキャップ制の上限を超えた履修登録をできるようにして良いということを定めています。
東工大(2016年度入学以降)の学修案内で具体的にキャップ制を定めています。 (2017年度入学者向けの学修案内より引用)
1単位は,授業時間外も含め45時間分の学修をもって付与されます(大学設置基準)。つまり,授業に出席して学修する時間のほか,授業の事前事後に学修することが求められます。授業の前に自主的に学修して,授業では学修してきた内容をもとにディスカッションしたり,授業の後に課題が出されたりするなど,授業時間外学修を前提とした授業が展開されます。このため,授業時間外に学修する時間を確保して内容をしっかり身につけるために,学年(4月~3月)を通して履修申告できる授業科目の単位数の上限を48単位として制限します。(これをキャップ(CAP)制といいます。)
ただし,当該年度の年度GPAが3.00以上だった場合は,翌年度の上限単位数が56単位になります。また,新入生及び前年度の年度GPAが3.00未満であった者が,当該年度の前学期において学期GPAが3.00以上だった場合は,当該前学期に履修申告した単位を含め,当該年度(4月~3月)の上限単位数が52単位になります。 なお,卒業要件にならない授業科目(教職科目等)の単位数は上限単位数には含みません。
ちなみに、1年間で48単位を取ると、週当たりの予習復習を含めた想定学修時間の合計は54時間[3](1日あたり7時間42分)という計算になります。(予習復習に大学時間を用いた場合)
ところで、名古屋市立大学ではキャップ制で1学期(1年の半分)当たり履修登録単位数の上限を24単位にしています。(1年当たりで考えれば東工大と同じ上限値) 名古屋市立大学では月曜から土曜まで毎日9時間学修するのが限界であると考えています。つまり、週に54時間が限界。週54時間が1学期当たり24単位に該当します。これをCAP制の1学期当たりの履修登録単位数の上限24単位の根拠と考えています。東工大でも同じような根拠で48単位を上限としているのでしょうか?
(参考: なぜCAP制(履修単位制限)が必要?|名古屋市立大学)
まとめ
- 1単位=45時間の学修が必要な内容
- 講義や演習の1単位 = 15時間の授業 + 30時間の予習復習(東工大の場合)
- 実験などの1単位 = 30時間の授業 + 15時間の予習復習 (東工大の場合)
- 多くの大学では1時間を45分や50分とみなしている。(大学時間)
- キャップ制は「科目を履修しすぎて、十分な予習復習ができずに、科目の内容をちゃんと理解できなくなる」ことを防ぐためにある。
おわりに
最後まで読んでいただきありがとうございます。
明日のアドベントカレンダーはDPさん、yu_さん、hukuda222さんの記事です。お楽しみに。