東京工業大学
デジタル創作同好会

2017年11月25日 | メンバーブログ

対位法への招待

saku

この記事はtraP Advent Calendar 11月25日の記事です。


はじめまして。さくです。
音楽系の記事です。
この記事は中学・高校物理が分かれば †誰でも† 読める記事になってます。たぶん。


音律

まず根本的な話をします。というのもそもそもなぜ音は 「12種類」 あるのでしょうか、ということです(ここでは“ド”と1オクターブ上の“ド”などは同じ種類)。ピアノを例にとると“ド”から1オクターブ上の“ド”の前までに白鍵が7つと黒鍵が5つで計12種類存在します。一般的な音楽の調性(ハ長調とか)については長短合わせて12×2=24の調があります。これはなぜ?

この答えは紀元前600〜500年頃、ピタゴラスの時代まで遡ります。まず大前提として、当時の人も1オクターブ高い音は似ていることを認識していたようです。ここで、ある一本の弦があったとして、この長さをLとして弦を弾きます。次に長さをLの半分にして弾くと長さがLだった時より1オクターブ高い音が主に響きます。

このことはv=λfの式からもわかりますね。ふつう振動数が大きいほど音が高いので、λが半分になればfは2倍になります。ここでv=√S/ρより音の伝わる速さは弦の張力と弦の線密度に依存するのでここでは一定とみなします。

さっき「主に響きます」としたのは弦を弾くとふつう振動数がその2倍、3倍...の音も同時に鳴るためです。“ド”の音を弾くとその1オクターブ上の“ド”(第2倍音)もかすかに鳴っているんですね。第2倍音はまだ聞こえやすいですが第3倍音以上になると聞くのが難しくなります。ちなみに第3倍音はドに対して1オクターブ上の“ソ”に近いです。

さて「万物の根源は数である」と考えていたピタゴラス学派の人たちはある基底の音(基音または1番目の音、第1倍音とも)から1オクターブ上の音(第2倍音)の間で基音ともっとも調和する音を見つけようとします。それが弦でいうところの元の3分の2の長さで弾いたときでした。これは基音(長さL)とその第2倍音(長さL/2)の間ということを満たしています。この音を2番目の音にすればいいのではないか?ということになります。

次に2番目の音を基準にとって同じことをしていき、3番目の音を決める、次に3番目の音を基準に・・・というふうに繰り返していきます。ここで現代の我々は周波数[Hz]について追っていくことにします。

  1. 1番目の音の周波数をffとするとその第2倍音の周波数は2f2f
  2. さっき決めた2番目の音の周波数は弦の長さと周波数は反比例するので32f{\frac{3}{2}}f
  3. 3番目の音(32)2f=94f({\frac{3}{2}})^2f={\frac{9}{4}}fですが2fを超えるので1番目の音(ff)以上で第2倍音(2f2f)より小さい範囲におさめるようにすると、周波数を2分の1で割っても同じ音名を持つことから3223f{\frac{3^2}{2^3}}f3番目の音の周波数とできます。

これを繰り返して行ったのが以下の表です。

n : n番目の音 音名 ドを基準とした周波数
1 ff
2 32f{\frac{3}{2}}f
3 3223f{\frac{3^2}{2^3}}f
4 3324f{\frac{3^3}{2^4}}f
5 3426f{\frac{3^4}{2^6}}f
6 3527f{\frac{3^5}{2^7}}f
7 ファ# 3629f{\frac{3^6}{2^9}}f
8 ド# 37211f{\frac{3^7}{2^{11}}}f
9 ソ# 38212f{\frac{3^8}{2^{12}}}f
10 レ# 39214f{\frac{3^9}{2^{14}}}f
11 ラ# 310215f{\frac{3^{10}}{2^{15}}}f
12 ミ# 311217f{\frac{3^{11}}{2^{17}}}f
13 シ# 312219f{\frac{3^{12}}{2^{19}}}f

13番目の音まで決まりました。ここで“シ#”の周波数に注目すると、312219f=(1.013...)f{\frac{3^{12}}{2^{19}}}f=(1.013...)fffとなることに気がつきます。当時のピタゴラス学派の人々はこれを“ド”とし、1オクターブを12の音に分割できたということにしました(妥協)。この方法で分割した音の集合をピタゴラス音律といいます。実際、この方法で音を決めていくとその音の周波数は正の整数m,nを使って3m2nf\frac{3^m}{2^n}fと書けることから、これがffとなるのはm=n=0のときだけであるので、一生オクターブを分割できません。

さて、“シ#”と“ド”の周波数比312219{\frac{3^{12}}{2^{19}}}(ピタゴラスコンマという)は大半の人間が知覚できるほどのうなり(不協和音)の原因になるので、それぞれの音を「いい感じ」に手直ししなければなりません。この操作(楽典的にいうと、完全5度で決まる音の正確さを手直ししてよく馴染ませる操作)で決まる不正確な音をオオカミ(ウルフ)の5度と言ったりします。でも、調律する人によって大幅に音が違ったり、特定の調性のみでしか音同士がよく響き合わないとなると不便です。

ちなみに勘がいい人は「弦の長さを3分の2にして弾いた音が調和的なら弦の長さを2分の3にして弾いた音も調和的では?」と思うかもしれません。その通りです。ということで、周波数を3分の2にしながら音名を崩さずに音を決めていくと以下のようになります。下で出てくる“♭♭”はダブルフラットで半音の半音下、つまり全音下を表します。

n : n番目の音 音名 ドを基準とした周波数
1 ff
2 ファ 223f{\frac{2^2}{3}}f
3 シ♭ 2432f{\frac{2^4}{3^2}}f
4 ミ♭ 2533f{\frac{2^5}{3^3}}f
5 ラ♭ 2734f{\frac{2^7}{3^4}}f
6 レ♭ 2835f{\frac{2^8}{3^5}}f
7 ソ♭ 21036f{\frac{2^{10}}{3^6}}f
8 ド♭ 21237f{\frac{2^{12}}{3^{7}}}f
9 ファ♭ 21338f{\frac{2^{13}}{3^{8}}}f
10 シ♭♭ 21539f{\frac{2^{15}}{3^{9}}}f
11 ミ♭♭ 216310f{\frac{2^{16}}{3^{10}}}f
12 ラ♭♭ 218311f{\frac{2^{18}}{3^{11}}}f
13 レ♭♭ 219312f{\frac{2^{19}}{3^{12}}}f

ここで決めた“レ♭♭”の周波数はffを下回っていますが周波数ffの“ド”と比較するためそのままにしておきます。ちなみに今でいう違う音名なのに同じ音を表す異名同音はピタゴラス音律では若干ゃ響きが違います。つまり、“ミ#”=“ファ”ではありません。“ミ#”と“ファ”の周波数比は311217/223=312219{\frac{3^{11}}{2^{17}}}/{\frac{2^2}{3}}={\frac{3^{12}}{2^{19}}}ピタゴラスコンマになります。異名同音のうち、周波数を2分の3で決めていった音と3分の2で決めていった音の周波数比は必ずピタゴラスコンマになります(ただし、“レ♭♭”:“ド”:“シ#”=219312:1:312219{\frac{2^{19}}{3^{12}}}:1:{\frac{3^{12}}{2^{19}}})。当たり前ぇ…ですかねぇ…

さてこの不便さを解消するために、ピタゴラス音律を改良した純正音律、中全音律、また現在幅広く使われている平均律(快適音律)が登場します。平均律半音間の周波数比が2の12乗根になっている音律ですべての調に転調可能(よく響き合う)という性質があります。

ただ、平均律は音同士の響きが無機質な感じがするかもしれません。そこで音に温かみや明るさを出すために基準となる音(今では 周波数440Hz くらい。これを“ラ”の音・“A”の音とする)の周波数をほんの少し上げたり、高い音ほど上に、低い音ほど下に周波数を補正したりする場合もあるらしいです。

対位法(Counterpoint)

ここから対位法という作曲法の話をします。結論から言うと対位法は作曲にはあまり役に立ちません。対位法を知らなくても作曲できます。でも現代の日本の音楽を聴いていてもたまに対位法そのものではないけれども、対位法的な音楽に出会ったりします(ゲーム系の音楽にも多いかも・・・?)。ここでは対位法の内容に深入りせず、さわりだけ軽く触れることにします

対位法とはある旋律に対してその独自性を崩さずに旋律を付け足してゆく作曲法です。つまり、メロディーにメロディーを重ねてゆくということであり、対位法で作られた音楽はすべてが旋律となります。といってもやみくもに旋律を付け足していってもカオスになるだけなので一応時代ごとの規則はあります。

対位法と同じような概念に「 和声法(Harmony) 」というものもあります。これはいまでいうところのコード(和音)をつなげる作曲法といえると思いますが、これも禁則事項がやたらと多く、さらに時代によってその規則が変化します。それらを当時の作曲家たちがところどころ破ってきたからこそ今の音楽があるんでしょう。

ざっくりまとめると、

となります。極端なイメージ的には対位法は繰り返し押し寄せる波とか行ベクトルの線形結合の線形結合とかで、和声法は列ベクトルの線形結合です。(分かりにくい・・・?)

ちなみに、対位法と和声法はお互いに影響しあって発展してきたのでそれぞれ全く違うものではなく、対位法でも和声法的(harmonic)な考え(縦のつながり)が大事であり、逆もまた然りです。

では、最後に対位法で書かれたピアノの音楽を聴いてみましょう。聴ける環境にある人は聴いてみてください。(ちなみに下のリンク先はIMSLPという著作権切れの音楽を無料でダウンロードできるサイトで楽譜もあります。)

Fugue_No.10_in_E_minor,_BWV_855

この曲はJ.S.バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻から 「フーガ第10番ホ短調」 という作品です。これは二声の、わりとシンプルかつしっかりした形式の対位法作品だと思います。 「フーガ」 とは複数の声部(パート)に同じ旋律が何度も現れる対位法の1つの形です。この時代(バロック時代)の対位法は調性がかなり大事で、ここで音律が効いてきます。ちなみにここでいう「平均律」とは 「よく馴染ませた音律」 という意味で使っているので必ずしも平均律の楽器のための曲集ではありません(例えば、ヴェルクマイスターの音律というものなども 「よく馴染ませた音律」 です )。

おまけ

下のリンクは様式模写でバッハをまねてパソコンが自動作曲したものです。これはカリフォルニア大学サンタクルーズ校の教授が公開している研究資料です。
自動作曲Invention

...それっぽい感じがしませんか?これなんかバッハのInvention 第8番 (音量注意!!) の印象を受けますね。

バッハ以外にもベートーヴェンを模倣したもの自動作曲Sonata、ショパンを模倣したもの自動作曲Mazurkaなどいろいろあります。ベートーヴェンのやつはテンポや曲調が月光 第一楽章に似てますね。ショパンのやつも入り方がもろノクターン 作品9-2で、やっぱり様式模写による自動作曲ではなかなか新しい音楽を作ることは難しいかもしれません。着想を得るには十分かもしれませんが。

自動作曲のツールは調べればいっぱい出るので興味ある人は調べて使ってみてください。(いろんな意味で有名な自動作曲ツールといえばOrpheusナリか)

参考文献


最後までお読みいただきありがとうございました。明日の担当はxxkiritoxxさん、Rondaiさんのお二方となります。

この記事を書いた人
saku

traP17 第5類→情報工学系(予約)の さく です。プログラミング勉強中です。

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