この記事は新歓ブログリレー48日目の記事です。
こんにちは。tenyaと申します。traPで2年半ぐらいゲームのサウンド担当をやってきました。短期長期含めると5つのゲームのBGM・SEを作ってきました。ポストイメージの画像はBGMを作るときのイメージをAIに作ってもらったものです。
デジタル創作同好会traPはもともとゲーム制作をしようという人間で創設されたサークルであり、現在も複数人でゲームを作るプロジェクトがいくつか立てられています。が、部内でのゲームサウンドのノウハウがあまり共有されておらず、プロジェクトを立てる側も所属する側もゲームサウンドってなんだかよくわからんという由々しき事態が起こっています。結果としてプロジェクトでゲームサウンドに携わりたいという人間が全然いない状態です。
この記事ではそんな状況を打開するべく、おそらくtraPで一番長くゲームサウンドに関わってきた人間として、ゲームサウンドの面白さやゲームサウンドの特徴を書いていきます。ゲーム音楽に興味がある人、今ゲーム制作をしていてあまりサウンドには詳しくないよという人に向け、ゲームサウンド制作の面白さが伝わるようがんばります。
BGM(音楽)、SE(効果音)の役割
最初にBGM(音楽)、SE(効果音)の役割について話していきます。まず、BGMと一般の曲はどのように違うのでしょうか?BGMは正式名称をBack Ground Musicというように、曲単体でなく、ゲーム全体を引き立たせるために存在するものです。引き立てるだけならいらないんじゃないか?と思うかもしれませんが、思った以上に、音楽や効果音の影響は大きいように思います。
ゲームの雰囲気を決定する
実は音楽とゲームの雰囲気は一心同体であり、ゲームの雰囲気を形作るのはBGM・SEです。ホラーゲームで恐ろしい音楽を流したり、RPGのボスで勇敢な音楽を流したりしているのは、視覚からだけでなく聴感で情報量を補足することで雰囲気を強く印象づけるためです。試しに、ゲームの音を消してみて、他のゲームのBGMを一緒に流してみてください...雰囲気が一緒のゲームならいいですが、ちょっと違う雰囲気のゲームとかではどうでしょう?それを踏まえて次の動画を見てみてください。
このゲームは冒頭で紹介したRoute 98というゲームで、ポストアポカリプスな荒廃した世界観を演出しています。なのに、なんかカフェで流れてそうな音楽が流れてきたらかなり面白くはあるけどゲームの雰囲気とはマッチしてないですよね。一方で、皆さんが普段やっているゲームで流れているような、ゲームの雰囲気をうまく伝えられる、表現しているような曲を作れれば、プレイしてる人にその場面を印象付けられるわけです。
これは効果音にも言えます。ボタンを押してコマンドを入力したときの音一つとっても、軽い音にするのか、重厚な音にするのか、メロディアスにするのかなど、色々考えることができます。また、皆さんがゲームなどで耳にする効果音は強調されたものであり、実際にはそんな大きな音はならなかったりします。ですが、場面を印象付けるためには効果的ですよね。
今までは印象を強くするという話でしたが、逆に印象づけないという方向もあります。昔のファミコンなどの古いゲームは、情報量を増やすためにメロディアスで分かりやすいBGMを使用するという動機がありました。しかし、最近は視覚情報で十分情報量が賄えるので、環境音+オーケストラなどであまり主張しないものにして、意識がBGMに行きすぎないよう調整している、という話があります(以下の動画を参照してください)。自分はここがBGMと普通の曲の大きな違いだと考えています。が、traPではあまり意識されていない気がします(大半が普通の曲を作ることを専門にしていて、BGMを作る専門の人間がいないので、いつものノリで作ると主張が強くなりがちだからかもしれません)。
ゲーム体験に影響する
次にBGMやSEはゲーム体験に影響するということです。ゲームの雰囲気がユーザーに印象づけるってところだけでなく、もっと根本なところです。
例えば、ユーザーがボタンを押すときに効果音が鳴ると鳴らないとでは受ける印象がかなり違います。木を切る音や扉を開ける音のようなリアルな音だけでなく、コマンドを選択する音やゲームを起動する音なども何気なく聞いていますが、重要な役割を持ちます。ユーザーに何かしらの変化が起きた、と視覚だけではなく聴覚でも認識させることで没入感をもたらしてくれます。
また、BGMでも、ユーザーの行動に合わせて切り替えたり変化させることで、ユーザーに聴覚的に場面が変化したことをより体感的に理解させるということもよくやります。戦闘BGMの緊迫した雰囲気から勝利したときの開放的なBGMを流すことで、勝利の実感をより確かにするわけです。インタラクティブミュージックといわれる手法があり、ゲームの進行度に応じてすごく滑らかにBGMを変化させるというものが知られています。実際に自分が制作にかかわったゲームでも、進行度に応じて楽器などがシームレスに増えるという実装に関わりました。
BGM・SE制作の面白さ
ゲーム体験やゲームの雰囲気を左右できる
ゲームサウンドの役割でも話した通り、ゲームの雰囲気はBGM・SEが担っているため、雰囲気をうまく表現できるような、つまり"それっぽい"曲を作れるとかなり楽しいです。
実際作ってるときはなぜか〆切ギリギリで切羽詰まっていることが多いので、あんまりこれはこういう雰囲気を醸し出せるため...とか頭のいいことを考えているわけではないです。ですが出来上がったゲームで自分の曲が流れていると、やっぱこのゲームこの曲ねえとこの雰囲気にはならねぇな...嬉しい気持ちになります。
与えられた条件の中で色々な試行錯誤をしながらこれだ!と思える曲を作る試みの楽しさ
プロジェクトリーダーが求める曲調もあり、自分が入れたい展開や雰囲気も含めるとなるとなかなか難しいときもあります。そういった条件をクリアして、プロジェクトリーダーやプレイしてくれた人間にこれいいね!と言われたときが冥利に尽きますね。
色々なジャンルや作風の引き出しを持って、色々な場面や条件に対処するのに面白さがあると思います。
SEやBGMは自己表現のツールである
SEやBGMはただ与えられる仕事というわけではなく、自己表現のツールでもあります。自分が抱いた印象や与えたい印象が出てくるからです。
一般的なゲーム制作や音楽制作ではSE(効果音)は専用のフォーリースタジオで録音されますが、traPでのSE制作はそんな録音環境がないので、基本フリー素材の中からそれっぽい音を探してくるかシンセ等で自作することで賄います。しかし、効果音制作としての基本は変わりません。効果音によってそこを印象づけるため、本職のサウンドクリエイターが様々な小道具を使い、実際より強調された音を出すように、それっぽい音に加工を施し、ゲーム体験に差し支えなくするための仕事をします。そこで想像力が生かされ、出力されたものは自分の考えが宿った自己表現になります。ちなみに、これは次の動画の受け売りです。面白いので良ければ見てみてください。
自分の能力を発揮する機会
自分がゲーム制作にかかわる最初のモチベーションとして、ある程度作曲に自信があったので、色々な曲を作れそうな機会としてBGM制作を見ていました。インプットが十分にできて、作曲に自信が出てきたから色々なジャンルの曲作ってみたい!という人間にマッチしている気がします。
作る人いないから引っ張りだこ
で結局作曲に自信が出てきて色々なジャンルの曲作りたくなる人間がマジでいないから誰でも最前線です
実際の仕事の例
今までで説明したことを踏まえ、私が実際にやってきた仕事の一例を紹介していきます。今回は上で紹介したPresto Rayでの仕事を流れに沿って見ていきましょう。
仕事の発注(BGM)
サウンドの仕事はプロジェクトが始まってしばらく経ってから動き出すことが多いです。ゲーム画面や必要なシチュエーションが分かってから初めてどういった曲や効果音が必要かが分かってくることが多いからです。 学生主導のプロジェクトなので、最初の段階で仕様を詰めきれること自体が少ないんです。なので、必要になったタイミングでプロジェクトリーダーから各自制作してほしいBGMの要求や〆切を案件ごとに教えてもらう、という感じでやっていました。以下が発注のときにもらったtraQ上でのメッセージです。
3つ仕事が投げられてるんですが、この中の高速道路ステージのBGMの話をします。Presto Rayは光を操作して走らせるレースゲームで、高速道路のステージのBGMを作ってくださいという仕事を振られました。「夜の高速道路とビル街」があって、「ジャズっぽくてちょっとおしゃれな感じ」っぽいものにしてくださいと言われていますね。ネタバレをすると、あんまりジャズっぽくはなりませんでした笑 まあ、OKが出たので...
次に、やることは大体の方向性の共有です。企業のBGMの発注などでもやられることらしいんですが、プロジェクトリーダーが想定するものと似ているBGMを教えてもらいます。そんなことしていいのか?と思うかもしれませんが、もし完成まで何も報告せず、いざプロジェクトリーダーに聞かせてみてダメだったときにまた1から作るとなるとかなりげんなりしますよね。そういった事態を回避するために重要なことなので、これはいつでも毎回欠かさずにやるようにしています。あとある程度真似できるものがあったほうが作りやすいからです わかるぐらい似せなければ問題ないと思います
以下のメッセージには想定するものと似ているBGM(リファレンスと言います)を教えてもらっています。ここで上げられている音源を紹介したかったのですが、正規の音源がインターネット上にないためここでは紹介できません。このとき共有されたのは「Drum 'n' Bass」というジャンルの曲で、自分もDrum 'n' Bassの曲を作ろうと思ってたしイメージが一致しているから作り始めよう、という感じになります。リファレンスをもらうことでイメージのすり合わせができましたね。
確認・調整
作り始めて大体のラフ(曲の概形)ができたら一旦見せます。作っている途中で変な方向に行っている可能性があるので、逐一確認を取るとより目的のものに近づけると考えているので、これも毎回やっています。
あんまり曲の印象が良くなさそうだったので修正します。というかメロディが気に食わなかったので、書き直した気がします。それを見せた時の反応が下です。ラフを見せるフェーズを見せることで方向を修正できたいい例ですね。
納品
最後に作った曲を納品します。このプロジェクトでは部製のクラウドサービスに音声ファイルを上げて、スプレッドシートに作った曲の名前、更新日時、制作者を記録して管理していました。それが全部終わればいったん仕事は一区切りです。
いかがでしたか?(定型文)
ゲームサウンド制作の面白さが少しでも伝わったでしょうか?「ゲームサウンドってBGMとSE?作るだけの仕事でしょ」というところから一歩理解が深まったのではないかと思います。今後皆さんがゲームを作るうえでの一助になれば幸いです。
明日は @zeta さんの記事です。お楽しみに~