これは新歓ブログリレー2026、3日目の記事です。
はじめに
春です!プロ野球開幕です!!
今年は3/27開幕ということで、あと19日。
オープン戦やWBCも始まって、いよいよ開幕直前って感じですね~
この記事では、2番打者の送りバントの価値について、昨シーズンの阪神タイガースを例にとって検証します。
散々擦られた感のあるテーマですが、実際のとこどんな計算して検証してんの?と疑問に思ったので、自分で分析ツールを書いてみました。
分析の詳細については後述しますが、結論としては「2025年阪神において、2番打者の送りバントに明確な優位性があるとは言えない」です。
ただ、状況次第ではバントしたほうが良い場面もあるかなーくらいな感じです。
既存の分析とほぼ同じ結論ですね…
送りバントとは
送りバントは、わざと弱いゴロを転がすことで、自分がアウトになる代わりにランナーを進める作戦です。
送りバントは犠牲バントや犠打とも言い、自分を犠牲に確実にチャンスをつくる「手堅い作戦」と形容されます。
どうしても1点取るためのチャンスが欲しいときや、バッターの打力が極端に低いとき(投手など)に多く見られます。
2番打者最強論とバント不要論
まず最初に、2番打者と送りバントをめぐる最近のトレンドについて触れておきましょう。
長らく、2番打者の役割のひとつに「1番打者が出塁したら、送りバントを決めること」がありました。
つまり、バントを確実に成功させる器用さが2番打者の資質とされていたのです。
川相昌弘(巨人)や菊池涼介(広島)などが代表例ですね。
しかし、近年「送りバントは損で、2番には強力な打者を置くべきだ」という主張が大きな支持を集めています。
これはセイバーメトリクス(野球を数理・統計的に分析する手法)の研究結果によるもので、2010年代に野球界に広まりました。
ここでは、器用さよりも優れた打撃能力が2番打者の資質とされます。
アーロン・ジャッジ(ヤンキース)やフアン・ソト(メッツ)、大谷翔平(ドジャース)などが代表例です。(大谷は最近1番が主ですが)
2番に強打者を配置して積極的に打たせるという新しいセオリーは、アメリカでは今や当たり前のものとなっています。
この傾向は、MLBにおける2番打者の総犠打数の推移からも見て取れます。

2025阪神のバント戦略
このトレンドに逆行して、2025年の阪神タイガースは2番打者の送りバントを多用する戦略を取りました。
伝統的な「1番が出塁、2番が送りバント、クリーンナップ(3-5番)がランナーを還す」スタイルです。
ほとんどの試合で2番を打った中野は、両リーグ最多となる44犠打を記録しました。
これは過去10年の両リーグを見ても3番目の数字です。
現代において非合理的とされる戦略を取った阪神でしたが、結果は優勝。
しかも、開幕からの独走で史上最速Vという圧倒的な強さを誇りました。他が弱かったのもある
また、阪神のクリーンナップを担った森下、佐藤、大山の三人が打点ランキングのTop3を独占するなど、古典的なセオリーが見事にハマったように見えます。
分析対象
阪神が新しいセオリーに逆行して成果を出したのには、理由があるのでしょうか?
自作のツールを使用して、以下の3つのケースについて分析を行いました。
- 0アウト1塁で2番中野 (ヒッティング)
- 1アウト2塁で3番森下 (バント成功)
- 1アウト1塁で3番森下 (バント失敗)
先頭の近本がヒットで出塁し、中野はどうするか?というシナリオです。
打順は2025年阪神の典型的オーダーをもとに設定し、成績は2025年公式記録に基づきます。
| 打席 | 打数 | 安打 | 本塁打 | 四死球 | 三振 | 打率 | 出塁率 | OPS | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 近本光司 | 638 | 573 | 160 | 3 | 62 | 88 | .279 | .348 | .700 |
| 中野拓夢 | 625 | 531 | 150 | 0 | 47 | 77 | .282 | .339 | .667 |
| 森下翔太 | 620 | 549 | 151 | 23 | 66 | 86 | .275 | .350 | .813 |
| 佐藤輝明 | 597 | 537 | 149 | 40 | 57 | 163 | .277 | .345 | .924 |
| 大山悠輔 | 587 | 503 | 133 | 13 | 80 | 96 | .264 | .363 | .758 |
| 前川右京 | 209 | 195 | 48 | 1 | 14 | 30 | .246 | .297 | .620 |
| 坂本誠志郎 | 414 | 340 | 84 | 2 | 58 | 91 | .247 | .357 | .683 |
| 小幡竜平 | 297 | 265 | 59 | 5 | 19 | 64 | .223 | .272 | .581 |
| 村上頌樹 | 61 | 53 | 4 | 0 | 1 | 31 | .075 | .093 | .168 |
結果
それぞれのケースでの得点確率の分布は、以下のようになりました。

| 得点期待値 | 標準偏差 | |
|---|---|---|
| ヒッティング | 0.896 | 1.309 |
| バント成功 | 0.744 | 1.053 |
| バント失敗 | 0.591 | 1.059 |
まずは、得点期待値を見てみましょう。
ヒッティング時が0.896点、バント成功時が0.744点と、バントをすると得点期待値は明確に低くなります。
既存の分析と同様に、得点期待値の最大化という観点からは、送りバントは明確に損と言えます。
そもそも送りバントが「確実に1点を取りに行く」作戦なので、まあ当然ですね。
次に、得点確率を考えます。
1点以上入る確率は、ヒッティング時が41.6%、バント成功時が43.0%、バント失敗時が29.3%となっています。
もしバントが成功すれば得点確率は上昇しますが、失敗すると逆に大きく低下します。
このときの損益分岐点は成功率89.8%ですが、中野のバント成功率84.6%[1]はこれに届きません。
しかし、内野安打になる大成功パターンや併殺になる大失敗パターンを考慮していないことに注意が必要です。
考察
この分析では、中野の送りバントは得点期待値の観点では明確に損であり、得点確率の観点からも明確な優位性は見られないという結果が得られました。
つまり、2025年阪神のバント戦略のメリットを説明することは、今回の分析の範囲ではできなかったことになります。
そもそも中野は(OPSこそ平均的ですが)打撃が下手なわけではなく、むしろ打率はチームトップです。
だいたいの場面で普通に打たせるべきというのは、割と自然な帰結に見えます。
ここで「バントは無意味!」とスッパリ結論付けないのは、今回の分析は単純なシミュレーションに基づいていて、無視している要素が多いからです。
実装の詳細については後述しますが、パッと挙げるならば投手能力、走塁能力、盗塁、守備シフトなどでしょうか。
また、得点価値の重み付けや最適打順の議論も今回できていません。
得点価値については、近年のNPBの飛ばないボール投高打低や、阪神の強力リリーフ陣による逃げ切り戦略によって1点目の価値が高まっていることを考慮するとまた面白い分析ができそうです。
おわりに
ここまで、得点確率分布をもとに2025年阪神のバント戦略について分析してきました。
この分析に使ったプログラムは、GitHubで公開しています。
Pythonの環境さえあれば、この記事の検証や別のチームでのシミュレーションが簡単にできます。
特段に優秀なものでもありませんが、お手軽に動かせるので、野球中継のお供にでもどうぞ。
今回の分析に限らない話ですが、現実の事象を数理モデルに落とし込む以上、数値化が難しい要素を捨象してしまうのは避けられません。
試合状況、環境、現場の肌感覚を無視してセイバーメトリクスだけを絶対視する主張が一部であるのは、もったいないなぁと感じます。
まあ人間も人間で認知バイアスの影響からは逃れられないのですが……
そのへんもひっくるめて、野球は面白いなぁと感じる今日このごろです。
早く開幕しないかな~~~~~
分析ツールについて
あの、普通に「おわりに」を書いたんですが、ここからが本題…というか一番書きたかったところです!!
せっかくデジタル創作・プログラミング系サークルのブログなので、実装の中身とか数学的背景についても触れます。
一応新入生向けの新歓ブログを名乗ってるわけですし…
ざっくり説明すると、攻撃を25状態のマルコフ連鎖と考える手法を使っています。
戦術的分析をするときに鉄板のやり方で、先述した「バント不要論」もこの手法を土台にしていることが多いです。
マルコフ連鎖と進塁モデル
今回の分析手法では、攻撃の状態をアウトカウントとランナー状況から25種類に分類します。
これは、アウトカウント3状態(0-2アウト)とランナー状況8状態(1-3塁について走者あり/なしで)の組み合わせ24状態に、3アウトの1状態を加えたものです。
走者が誰かまで区別しようとすると67状態になるのですが、今回は区別しないことにします。
このマルコフ連鎖における確率行列は、打者がある打撃結果(ホームラン、三振など)となる確率と、打撃結果によってランナーがどのように動くかを決定する進塁規則から決まります。
ざっくりとした進塁規則として、D’Esopo & Lefkowitz 進塁モデルがあります。
このモデルは、ある打撃結果に対しての進塁パターンが1通りに定まります。
単打で2塁ランナーが必ず生還する、2塁打で1塁ランナーが必ず3塁で止まる、併殺打が無視されているなどの問題があり、特に2塁ランナーの価値が過大評価されるためにバント関連の分析に向きません。
そこで、今回は実際の統計データをもとに進塁モデルを構築することにしました。
直近10年分(2016-2025)のMLBでの全打撃イベントについて、その前後の状態を記録することで、打撃結果ごとに確率行列を作成します。
これによって、例えば2塁打のときの1塁ランナーの動きがアウトカウントによって異なることを表現できます。(下表参照)
| 生還 | 3塁 | アウト | |
|---|---|---|---|
| 0アウト | 30% | 68% | 1% |
| 1アウト | 34% | 63% | 3% |
| 2アウト | 51% | 43% | 6% |
また、三振と凡打を区別することで、併殺打や進塁打、犠牲フライなどを比較的精度よく考慮できるようにしました。
残念ながら、ゴロアウトとフライアウトの区別はつけられていません。(選手データとして持ってくるのが難しいので…)
走塁能力も考慮できていないので、進塁確率や併殺率が平均的な選手のものに統一されてしまう問題もあります。
このように構築した打撃結果ごとの確率行列を選手成績に基づいた比率で混ぜれば、選手ごとの確率行列が完成します。
あとは計算をまわすだけです!
得点期待値を解析的に
今回扱う25状態マルコフ連鎖ですが、3アウトの状態を吸収状態とした吸収マルコフ連鎖と捉えることができます。
一時状態の確率行列を とおくと、この吸収マルコフ連鎖の基本行列は となります。
ここで基本行列 の各要素 は、状態 から開始したときに、吸収状態に達するまで(イニング終了まで)に状態 を訪問する回数の期待値を表します。
次に、報酬行列 を、各要素 が状態 →状態 で入る得点となるように定めます。
すると、状態 にいるときに次の遷移で入る得点の期待値は となります。
ここで得られる1ステップ期待報酬ベクトルを とします。
以上より、得られた基本行列 と1ステップ期待報酬ベクトル から、ある状態から開始したときにイニング終了までに得る総得点の期待値ベクトルは となります。
したがって を解くことで得点期待値を求めることができます。
9人で打線を組む時を考えても、一時状態を 状態と考えることで一時状態の確率行列を適切に拡張すれば良いです。
得点確率分布をシミュレーションで
なーーーーんて難しいことを並べましたが、結局はシミュレーションぶん回したほうが簡単で、得点期待値以外の情報も得られます。
すごいすごい!さすが現代のコンピュータ!
とりあえず 回くらいシミュレーションを回せば、大数の法則によって真の値を良い精度で推定できるでしょう。
モンテカルロ法ってやつです!
先程の解析的なアプローチでは得点期待値しか計算できませんでしたが、モンテカルロ法を用いることで得点分布や分散などを推定することができます。
まあ状態数増やせば解析的アプローチでもできなくはないのですが…計算コストもその分増える()し実装がめんどい…
すべての得点が同じ重みを持つ得点期待値は、(少なくともロースコア中心の日本では)戦術的解析にはあまり向きません。
ある状況下での最適戦略を考えたいなら、シミュレーションをするのが適切でしょう。
本当のおわりに
ようやく、本当におわりです。
こんなに長い記事になるとは思わなかった………
セイバーメトリクスは以前からTwitterでちょくちょく目にしてはいたのですが、しっかり自分で分析するのは初めてでした。
今年からNPB+というアプリが正式にサービス開始になり、日本でもセイバーメトリクスが更に身近なものになるのかな…?と期待しています。
そういえば、一応これは新入生向けの新歓ブログという位置づけなのですが、果たして新入生はこんな記事を読むんでしょうか…?
こんなん読むの野球オタクだけでしょとは思いますが、もしいたらぜひtraPへ!
色々な人が色々なことをやっていて面白いですよ〜〜!!
ブログリレーはまだまだ続きます!!
なんと4月下旬あたりまで毎日記事が投稿されるそうです!(すごい)
ぜひ他の記事も読んでみてください。
明日の担当は @SyntaxError です。楽しみ〜