はじめに
こんにちは.工学院情報通信系23Bのissaimaruです.
突然ですが,BOOTHを知っていますか?BOOTHはpixivが運営している,クリエイターがオリジナル作品を販売するためのネットショップです.去年あたりに友達と一緒に初めてここで商品を出してみたところ,思ってたよりも売れて,今年アルバイトで得た収入と同じくらいの売上がありました.
というわけで個人でも何か物を作って売ってみようと,売れてそうなBOOTHの商品をずっと監視していたのですが,最近はVRChatブームでVR関連のガジェットが圧倒的に人気みたいです.その中でも特に自作フルトラは既製品よりも安く購入することができるので,需要が高いです.

今回はこの自作フルトラを販売するための前準備として,BOOTHで売られているVRトラッカーを超えることを目標に自作フルトラを試作して,実際にVRChatで使ってみる...という記事にする予定でした.が,部品が全部届いたのが昨日だったので,まだ動作確認の途中です()
そのため,今回はBOOTHに売られている自作フルトラや,Sonyのmocopi®のようなプロダクトよりも”良い”自作フルトラを作るためにはどうしたらいいかについて考えてみようと思います.

既製品について
企業が開発したフルトラッキングデバイス
まず最初に,企業が開発・販売しているフルトラッキングデバイスについて紹介します.値段については2025年12月22日時点でのものです.
mocopi(モコピ) - Sony ¥49,500/1セット(6個)
加速度センサー型のフルトラデバイスで,企業で販売されているものの中では比較的安価で購入することが出来ます.加速度センサー型デバイスと外部センサー型デバイスの違いは以下の記事に詳しく説明されているので割愛しますが,比較的安価で販売することが出来る反面,ドリフトが発生するので定期的なキャリブレーションが必要となります.また,32mm×11.6mmと非常に小さいのが特徴です.

VIVEトラッカー3.0 - VIVE ¥16,000×3+¥20,600
結構有名なフルトラデバイスだと思います.
ベースステーションが必要な外部センサー型デバイスで,フルトラッキングを実現するためにはVIVEトラッカーを3つに,SteamVR Base Station 2.0を1つ用意する必要があり,総額で¥68,600もします.ただ,性能は非常に優れているとのことです.

他にも色々なフルトラデバイスがありますが,値段についてはどれも同じような感じで,加速度センサー型でさえ安くても4万円はするといった感じです.精度や完成度についてはもちろん企業が開発したものを超えるのはほぼ不可能といってもいいので,同じ性能をより安い値段で実現する方向性が良さそうです.
クリエイターが開発したフルトラッキングデバイス
チーズケーキ - 空影雑貨舗 ¥15,980/1セット(6個)

一番推しているフルトラッキングデバイスです.この方のフルトラだけ明らかに完成度と値段がおかしいです(ほめ言葉)
内蔵バッテリーで駆動して,最大8個のトラッカーを同時に充電することが出来る充電ドックがあります.ESP32が乗っているので充電がすぐ無くなりそうですが,800mAhのバッテリーで約7-9時間も持つとのことです.「チーズ」「いちご」「チョコ」の三種類あり,それぞれ乗っているIMUセンサーの種類だけが違うみたいです.
あと余談ですがこの方おそらくうちの大学の学生です.わんちゃんロ技研の先輩だったりしないかな.

ぽてとら - guttipoteto ¥12,500/1セット(6個)
回路設計が本職の方が制作された,有線接続式のフルトラデバイスです.
バッテリーが各トラッカーに搭載されていないので,別途モバイルバッテリーを用意し,ケーブルで接続する必要があります.個人製作したものを販売するとなるとやはりバッテリーの扱いが難しいですし,ESP32の消費電力でバッテリー駆動させようとなるとサイズ・コストがネックになってくるので個人的にはこの仕様は理にかなっていると思います.
IMUはBMI270を搭載しているとのことです.色んなところでこのIMUが使用されているみたいですが,他のIMUと比べて何がいいんでしょうか(わかる人が居たら教えてほしい).Bosch Sensortec社の名前は初めて聞きました.

ちーとら - lorovel ¥9,000/1セット(6個)
激安SlimeVRトラッカー「ちーとら」の販売を開始しました!!!
— ロロベル(旧まつ) (@lorovel_vrc) November 3, 2024
値段は... 全部込み”6000円(+送料)”となります!!!
しかも6つのセンサー(BMI270)を搭載、そこそこの性能を確保しています!
フルトラ、始めませんか!https://t.co/tyEu3B3I6q pic.twitter.com/ZSZHypIf09
一年前くらいにこのポストで知りました.とにかく価格が安いのが特徴なのですが,さすがに¥6,000は適正価格じゃなかったとのことで,今は¥9,000みたいです.それでも1個¥1,500なので,安すぎるけどね.
これもバッテリーが各トラッカーに搭載されていないので,別途モバイルバッテリーを用意し,ケーブルで接続する必要があります.またセンサーもBMI270とのことで,ぽてとらの仕様とかなり似てますね.
ただ『「ちーとら(メイン)」「ちーとら(サブ)」の「トラッカー接続用ポート」にトラッカー以外のものを接続すると故障します』という表記で,規格が守られてないのか少し気になりました.

クリエイターが開発したフルトラデバイスの相場は¥10,000~¥20,000くらいで,とにかく安さが特徴みたいです.
安全性やサイズ,コストの観点からバッテリーを搭載していないフルトラデバイスが多く,毎日使用するとなると,ケーブルが邪魔に感じるかなとは思いました.
また,企業が開発したものと比べるとサイズが二回りくらい大きく,携帯性の面でも企業のフルトラデバイスに軍配が上がりそうです.
既製品を超えるには?
さて,既製品には次の特徴があることがわかりました.
- 企業が開発したものは小型のものが多く,信頼性が高い一方で,とにかく値段が高め
- クリエイターが開発したフルトラデバイスはとにかく安い反面,バッテリーが搭載されてなかったりサイズが大きかったりして日常使いするとなると不満が多そう.
一番単純なアイデアとしては安さをもっと追及することですが,これはどうでしょうか.ちーとらの構成で考えてみましょう.ESP32-C3-WROOM-02-N4が秋月で1個¥340なので,6個だと¥2,040です.BMI270のチップ単体がDigikeyで1個¥599(大量購入するともっと安くなる)なので,6個だと¥3,594です.これを合計すると¥5,634となり,マイコンとIMUだけで原価が¥6,000近くします.実際にはこれにType-Cコネクタなどのパーツ代で+¥1,000ほど,PCB代(送料含む)で+¥1,500ほどかかるので,原価が¥8,000ほどかかっていることが予想されます.大量に売ったり,AliExpressとかのチップ使ってどうにかコストカットしても,利益を考えるとちーとらと大差ない値段になると思います.
現実的な方法で既製品と差別化するには,¥10,000~¥20,000の範囲内でバッテリーが搭載されていて,なおかつ企業が開発したフルトラと同じくらいのサイズのフルトラであれば良さそうです.これだとクリエイターが開発したフルトラのデメリットと企業が開発したフルトラのデメリットを解決できているし,なにより条件に無理がないと思います.
そんなもの,作れるの?
そのようなフルトラデバイスが作れるのかということについて,少し考えてみようと思います.
まず,サイズを考えるうえでボトルネックとなるのがバッテリーの大きさだと思います.乾電池は大きすぎるので,Li-ionかLiPoを使うことになるでしょう.
ESP系トラッカーは消費電力がとても多いので,最低限1000mAh以上の容量がないとバッテリーの持ちが気になる(半日ももたない)らしいですが,そのようなバッテリーは72mm×45mm×34mmもするので,それだけでmocopi®の2倍程度の大きさがあります.
ということで,現在爆速で開発が進められている,Smol Slimeを使用するのがいいでしょう.本当か知りませんが200mAhのリポバッテリーで50時間も(?!)持つらしいです.402030という200mAhのバッテリーが4mm×20mm×30mmなので,これだとmocopi®と同じくらいのサイズのケースに収まります.
次に,マイコンの選定です.公式サイトで推奨されているnRF52840はチップの名前ですが,安く済ますためにPCBアンテナは基板上に設計しておいて,チップ単体のみを実装するというやり方だと技適が通っていないので電波法違反になります.技適を自分で取ろうとしたことがあるのですがめちゃくちゃ高いのでやめた方がいいです.
そのため,モジュールを使うことになるのですが,技適が通っていて大きさが小さいものがSeed Studio XIAO nRF52840しかなく,値段は微妙ですが現在はこれ一択になってしまうと思います.

Digikeyだと3個セットで¥4,174なので,6個で¥8,348です(レシーバー用のマイコンが必要なので本当は7個必要です).
このモジュールのいいところは裏面にバッテリー接続用のパッドがついていて,そこにリポバッテリーを繋ぐだけで充電することが出来ます.
後の部品はサイズに特に関係しないと思うので,Smol Slime公式サイトの構成通りに自由に選べばいいと思います.
ちなみに冒頭に紹介した試作基板は¥12,544(部品代)+¥2,406(基板代)で総額¥14,950です.一応先ほど設定した条件の金額を満たしていて,サイズもmocopi®と同じサイズです.まだ試作品ですが,ちゃんと筐体も作ってmocopi®っぽい使い方が出来たら割といい感じになる気がします.
ただ値段があまりにも微妙なので,改善したいところ...
いかがだったでしょうか.正直今BOOTHで売られているフルトラデバイスが強くて価格もびっくりするくらい安いので,これに勝負するとなるとなかなか厳しい戦いになりそうです.趣味で作るならいいですが,ただ安く済ませたいだけなら自作せずに,BOOTHで既製品を購入することをおすすめします笑
以上です.この記事を読んでもっといいアイデアあるよーと思った方は,ぜひ教えてくださると嬉しいです.では,またどこかで会いましょう.
明日の記事は@madara16877くんの「1ヶ月半で同人誌を制作する方法」です.楽しみ~



