キーボードの論理配列の話
この記事は新歓ブログリレー 2021 47 日目の記事です。
初めまして、20B の Lum1narie と申します。この記事では、私の趣味であるキーボードの配列についてお話ししたいと思います。
論理配列とは
今回は論理配列のみを話題として取り扱います。
論理配列とは、キーボード上のキーの場所が定まった上で、どのキーがどの文字に対応するかというものです。
これに対し、キーボード上のキーそのものの場所を物理配列と言います。
物理配列にも、キーの数だったり、格子状の配列だったり[1]と話題があるのですが、今回は取り扱わないことにします。
対象言語
また、入力する文は英語とします。
入力する文が日本語だった場合は、ローマ字入力の場合は母音の優先度が更に上がったり、英文に比べて特に'k'の重要度が上がったりなどといった変化がありますが、基本的には英文のものに近いです。ただし、ローマ字以外の入力形式が入ると別の話になるので、その件についてはまたの機会にしたいと思います。
まだ QWERTY で消耗してるの?
QWERTY 配列というのは、皆様が恐らく使っているであろう一般的なアルファベット配列のことです。キーボードの左上からのキーの並びが"QWERTY"なので、このように命名されています。
世間一般のキーボードは九分九厘が QWERTY 配列で、それを恐らく疑問に思われることは少ないと思います。裏を返せば、論理配列を考えたいということは QWERTY 配列から離れることに何らかの動機があるということです。
その理由は、QWERTY 配列が入力に関して非効率であるからです。
入力効率は様々な側面から測られるものですが、良く合意される要素の一つとして、ホーム列の使用頻度があります。ホーム列にないキーを押すということは手が前後に動くことになるので、疲労や安定性といった観点から効率に影響します。
ここでは導入として、まずこの 1 要素のみについて紹介します。
ホーム列のデータ
データはCarpalxというプロジェクトのものを参照させて頂きます。これは、キーボードの最適な配列を追求するプロジェクトの一つで、
Carpalx/typing effortのような評価関数を用いて配列を評価するプログラムを作り、QGMLWY などの配列を考案しています。
データの元になった文書は先程のCarpalx/typing effortの一番下に書いてある通りで、全て英語の本で、主に文学作品からデータが取られています。
Carpalx/keyboard layoutsのrowhの列がホーム列の使用頻度で以下の通りです。
keyboard name | rowh |
---|---|
QWERTY | 0.34 |
Dvorak | 0.71 |
Colemak | 0.74 |
Workman | 0.68 |
Norman | 0.68 |
qgmlwy | 0.74 |
(表はCarpalx/keyboard layoutsより一部抜粋)
QWERTY 以外の配列でメジャー所と言えば Dvorak, Colemak, Workman, Norman あたりですが、これらはホーム列の使用頻度が 68%以上あります。一方、QWERTY におけるホーム列の使用頻度は 38%です。
主張
英アルファベット 1 文字の出現頻度は偏りが大きく、今回のデータで言えば 26 種類あるうちの上位 5 種類で 44%を、上位 10 種類で出現回数の 74%を占めています。そのように考えると、ホーム列で 38%しか打てていないのはかなり少ない数値であり、更に、その他の配列と比べて 10 打鍵に 3 打鍵分多く手を動かさなければいけないと考えると、かなり非効率であると言えます。
論理配列の例
上のような理由でQWERTYに満足できない人達によって、様々な論理配列が考えられています。
筆者が良く名前を聞くと認識している配列には以下のものがあります。この中ではDvorakが一番歴史が古く、QWERTY以外では英語用の配列として一番メジャーどころだと思います。
その他の配列は古くても2000年あたりから現在に作られたものです。キーボードの配列を凝り出す人が増えたのがそのあたりと把えられるでしょう。
- Dvorak
- Colemak
- Workman
- Norman
- qgmlwy
これらを大きく分類すると、Dvorakとその他になると思います。
Dvorakは左手に母音を集めているのが特徴で、特にQWERTYとの差異が大きものになっています。ちなみに、左手に母音を集める都合上日本語ローマ字入力とは少しだけ相性が悪く、その為Dvorakを拡張した日本語用の入力方式も存在します。
その他の配列は右手に母音を集めているものが多いです。また、ZXCVやAなどショートカットキーとしてよく用いられる文字をQWERTYから動かさないことで、一部の互換性にも考慮しているものが多いといえます。
配列の評価方法
良く評価基準として挙げられるのは以下の要素です
- 入力のそれぞれ1文字に対して
- ホーム列の使用頻度
多い方が良いとされます。 - 指の使用頻度
小指側の指の使用頻度を減らした方が良いとされます。 - 使用する手の左右差
利き手に偏らせるという意見もあれば、負担分散のために均等にすべきという意見もあります。
- ホーム列の使用頻度
- 文字のn-gram (n>=2)に対して
-
同じ指の使用頻度
同じ指で違うキーを押させるのは良くないとされます。
QWERTY配列における具体例は"jump"の"jum"など -
隣り合う指の使用頻度
隣り同士の指を連続で使うのは良いとされます。
アルペジオと呼ばれる事が多いような気がします。QWERTY配列における具体例は"option"の"op","io"など
筆者の個人的な見解としては、この要素の恩恵はホーム列の使用頻度が高いことが前提になると考えています。
-
使う手の組み合わせ
上以外の場合では、左右の手を交互に使う打鍵が良いとされます。QWERTY配列における具体例は、"display"の場合"LRLRRLR"であり、
同じ手の連打が1回しか発生せず、その1回も隣り合う指なので比較的打ちやすい[2]
-
n-gramというのは、配列の要素のうち連続したn要素の部分配列を並べたものです。
例えば、"fortune"を2-gramにしたものは["fo", "or", "rt", "tu", "un", "ne"]になります。
この中でどれを特に重視するかは人の好みによるところで、中には"頻度の左右差をつける"と"左右交互に手を使う"というように相反する概念もあったりするので、自分で採用する配列を考えるときは、この優先順位を各自決めるのが良いと思われます。
論理配列の変更方法
実際に配列を変えたい場合、その方法は大分すると、ソフトウェアで配列を変える方法とハードウェア(キーボード)自体の配列を変える方法の2通りに分けられます。基本的にソフトで行った方が安上がりで比較的簡便なので、より初心者向けです。
ソフト
キー配列を変えるソフトを用います。
WindowsではDvorakJが一番使いやすいと思います。インストール不要なので、環境を移すのも楽です。中でAutoHotKeyが動いているそうです。
設定方法は公式サイトを参照してください。
昔から使っている人だと窓使いの憂鬱やのどかを使ったことがあるかもしれません。
Macは実際に使ったことはありませんが、Karabinerを使う人が多いようです。
Linuxでは、この手のソフトの話はあまり聞かないような気がします。アルファベットの配列を変える方法は一般的なディストリビューションに最初から入っているような機能にあったような気がしますが、今日扱っていないひらがな入力系統まで賄えるソフトが無かったように思えます
ハード
基本的には自作キーボードに組み込む形になります。
もう少し簡便なものだと、かえうち2をキーボードとPCの間に噛ませるという方法もあります。
かえうちは使ったことがないのですが、画像を見た感じ設定画面が分かりやすく、比較的丁寧なように感じました。
自作キーボードの作り方は調べれば色々出てくるのでそちらに任せますが、種類で言うとPlanckあたりから入る人が多かったように思います。
ファームウェアはQMK firmwareがメジャーどころで、単に文字を入れ替えるだけならQMK configuratorというGUI環境(webサイト)が用意されています。
また、複雑な事をしたい場合、QMKはC言語で記述されているので、コードを書けるなら色々な事ができます。特殊なひらがな入力[3]を実装したり、変わり種ではモールス信号入力を実装した人もいます。
キットで作るQMK対応キーボードの文字を入れ替えるだけの場合、キーの内容を格納している配列を少し書き換えるだけでできるので、キーボードを組み立てる機会がありましたら、怖がらずにQMKを触ってもらえたらと思います。
まとめ
皆も色んな配列を使ってみよう!
ただし、配列を変更するとしばらく速度は出なくなるので、業務等ではない日記のようなもので練習すると良いと思います。数週間すれば慣れます。
明日の担当者は @Komichi です。どうぞお楽しみに。